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嗚呼、勘違い

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情報を正確に伝えるのは難しい事だ。
言葉が足りなければ、誤解を招く結果となるし
言葉が過ぎたならば、冗長となり理解を妨げる。

例え口にした言葉に嘘が無いといっても、それだけでは不十分だ。
理解するのは聞いた方なのだから、相手が取り違えたならば意味がない。
そう考えると、情報が完全に思う通りに伝わるなどとは、
所詮、夢物語でしかないのかもしれない。

だが、私はそれゆえに思う。正確なる情報伝達は必須だと。

以下に、言葉が足りなかった場合での例を示そう。
ちょっとした事が、どれほどの被害を出し得るのか。
皆様にも考えていただきたい。










その日、美神除霊事務所はぴりぴりとした緊張感に包まれていた。
緊張感を生み出している大本は美神であるが、
おキヌとタマモもまた、この空気に一躍担っている。
皆の感情メーターが不機嫌に傾いている原因は、
今、部屋に入って来た、何やらえらくご機嫌なシロ。
尻尾をぶんぶん振って、鼻歌でも歌わんばかりのご様子。

昨夜、彼女は横島の家に泊まったのだ。
別に艶めいた話ではなく、理由は大したものでもない。
精精、散歩で帰りが遅くなったためという所か。
横島自身による電話での連絡もあったから、
シロの事を心配する必要も無かったのだが、
それでも、美神達に一抹の不安は残る。
あの『横島』の家にお泊りだ。
シロがたとえ彼の守備範囲外だとはいえ、万が一の結果は否定できない。

まさか、いやいや流石に、でもシロの方から・・・・・・・

思考はループし、
想像は暴走を始め、
受けと攻めが変わり、
悶々とした侭に時は過ぎる。
心配しているのはシロなのか、それとも横島なのか。
それは、彼女達自身にも分らなかっただろう。

そして、朝が来て審判の時。
シロの嬉しそうな様子だけを見れば、
横島の家にお泊り出来た事を喜んでいる、と思うのが普通だろう。
だが、そこは一晩徹夜で過ごした頭脳。
ノンブレーキフルスロットルで爆走開始。
彼女の何処までも明るい笑顔。
それは愛しい人と結ばれた故のものではないか、と。


(ま、まさかね・・・・・・・)


嫌な予感を振り払う為にも、
美神が代表として、何気ない風を装いシロに尋ねた。


「シ、シロ?何でそんな嬉しそうなのかしら?」


それでも声に混じる動揺は隠せなかった。
だが、そんな違和感になど気付きもせずに
シロは軽く虚空に視線をやって夢見心地。

頬ほんのりと赤らめて、
唇辺りを艶やかに緩め、
お腹の辺りを撫でまわし、









「できたのでござる♪」










ナニかが罅割れる音が、そこかしこから響いた。
それは、ぷち、であったか。ぴき、であったか。


「ちわーっす」


ナイス、あるいはバッドタイミングでの煩悩少年ご登場。
直感が危険を叫び、踵を返し逃げようとする横島。
そんな彼に伸びてくる、殺気を纏った複数の腕。
掴まれて、部屋の中に引きずり込まれる横島。
ドナドナが何処からともなくヘビメタ調で聞こえてくる。










(バイオレンスの嵐が吹き荒れております
 舞い散る桜の花びらを思いながら、お待ちください)










「もう、昨日の肉料理は自分でも会心の出来。
 今思い返しても涎が出てしまうでござるよ。
 腹を満たして先生と一緒にいられたのは、まさに至福の一時でござった。
 ああ、あれほどに上手くできたのは、初めてでござるなぁ・・・・・・
 ・・・・・・って、せんせーっ!!!
 何故そんな使い古したぞーきんのよーにずたぼろにーーーーーーっ!!!!!」










・・・・・・如何だったろうか。
彼女は決して嘘はついていない。
意図的に、仲間を騙そうとしたわけでもない。
そもそも少し考えれば、一日でできるわけが無い事に気付いただろう。
しかし、結果として、一人の少年が病院送りになってしまった。
これが、情報伝達が上手く行かなかった場合に見られた弊害である。

言葉には、気をつけて頂きたい。

私のような被害者をこれ以上出さない為にも・・・・・・・



・・・・・・・・何もしてへんて言うたやないかーーーーーーーーーっ!!!!!