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夢の中で

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悪夢には二つの形が在る

その一つは

神へと祈る、恐ろしき悪夢

夢ならば早く覚めてくれ、と



そして―――――――――










「なあ・・・・・夢って夢だから夢なんだよな」

「はあ?」



横島による突然の発言に、返されたものは
意味を為さない、ルシオラの呆れ声だった。



「いきなり何なの?
 それだけじゃわかんないわよ」



聞き返す、その口調は苦笑こそ含んでいるものの、
説明不足への苛立ちや嘲りなどは無かった。
会話の始まりを楽しんでいる節もある。



「いやさ、ふと思ったんだよ。
 まあ、単なる思い付きでしかないんだけど」

「なになに?」



秘すれば気になるのは世の常。
それが、愛する者の思いであるならばなおの事。
たとえ、益体も無いただの思いつきであろうと、
好奇心が刺激されるのは当然だった。

ホントたいした事じゃないんだけど、と前置きし、
頭を掻きながら、口を開く。



「夢見てる時ってさ、それが夢だとわかんないよな?
 起きてから、ああ夢だったんだ、とは思うけど。
 で、夢を夢って実感するのはどうかなー、って思ってさ」



ゆっくりと考えながら、たどたどしくも言葉を重ねてゆく。
そんな彼の言葉を聞きつつ、同じく考えながら、



「んー・・・・・・・夢は無価値だって事?」

「あー、そうじゃなくってな」



がしがし、と更に強く頭を掻く。
出てこない言葉を掻き出すかのように。



「なんつーか、
 夢は夢で、意味あるし価値あるんだけど
 夢は夢してるから夢なんであって
 夢の中の俺も夢なわけで
 でも夢が夢だってわかったら夢は現実の夢で
 夢の俺が現実の俺で、現実の俺は夢の俺・・・・・・・
 だー!訳わからんっ!!!」



言っているうちに、混乱してきたのか頭を掻き毟る。
思い付きを言語化するにあたり、途中でエラーが生じたようである。



「うーん・・・・・・・・・・」



そんな彼を尻目に、
僅かな言葉の断片より、言いたいであろう事を類推する。



「・・・・・・夢の中にいる自分自身も夢だって事かしら?
 でも、それは夢だと気づいてないから夢なのであって、
 夢の自分が己を夢と気づいたら、もうその自分は現実でしかない。
 そして、そんな自分が見ている夢も、全て現実の一端でしかない。
 現実の視点からしか、見ることが出来ない。
 ・・・・・・そういうこと?」



ルシオラは目で問うた。



「あー、そんな感じそんな感じ」










夢と気付いた瞬間
その時、もはや夢は覚めているのか
それともまだ、それは夢であるのか



――――――――――夢として在れるのか










「まあ、考えすぎるのも、あんまり良くないわよ。
 ただでさえ、ヨコシマは頭悪いんだから。
 たとえ夢と知っても楽しいものは楽しい、それでいいんじゃないの?」



ちょっとした軽口に、笑みと気遣いとを包み
横島を優しく見つめている、一対の瞳。

それを見つめ返し
そうだな、と自答する。

楽しければいい、それは俺の基本スタンス。
だから、こんな風に考えるのはらしくない。
悩んだ所で、解が出るような問いでもない。





それならば――――――――





夕陽に照らされた元で、行こう、と差し出された手。
逆光となって、ルシオラの表情はわからない。

横島は無言
答えを発する代わりに、己の手を伸ばした。





せめて、この手が届くまでは、と願いながら――――――――














――――――――もう一つは



夢ならばどうか覚めないでくれ、と

心から願い続ける

残酷なりし悪夢