本日 20 人 - 昨日 35 人 - 累計 182438 人

青い空

  1. HOME >
  2. 創作2 >
  3. 青い空



―――――限りなく遠い未来へと


雲一つ無い、秋の空

何処までも高く
何処までも広く

落ちて行きそうな程に
溶けてしまいそうな程に

寝転んだまま、何をするでもなく
ただ、見つめるだけで








眼前には青空が広がっている。
その蒼さに落ちて行きそうな錯覚。
本来ありえない上空への落下感。
そんな錯覚を、横島は感じていた。
今、寝転がっているというのも、その理由の一部だろう。










青い空
蒼い空

手を伸ばす
透かして見る手に真っ赤な血潮
そんなものが見える筈も無く
命がそこにあるかもわからず
ただ、暗く翳るだけで






ここは屋上。
それも、屋上の中でも最も高いであろう場所。
校舎で一番、空に近い場所。
それでも、ずっとずっと遠い手の届かない場所に空はある。
こうして手を伸ばせばすぐにも届きそうなのに。










深過ぎる空
遠過ぎる空

想いだけならば、何処までも飛べる
思いだけならば、何処へでも届く
けれど
伸ばした手は、何も掴む事は出来ず
ただ、風を掻くだけで










解っている。
空へ届こうとする、その愚かしさなど。
それは、星を掴もうとするようなもの。
それは、太陽に飛びたたんとするようなもの。

けれど、横島はこうも思う。
たとえ、手が届かない場所であろうとも
今ここで、手を伸ばす事は出来るのだ、と。

青く広がる空には、薄く広がる雲が浮び
輝く太陽が、今日もまた
世界の全てに祝福を降り注いでいる。








秋風が吹き抜ける空
秋風が通り過ぎる空

空に誰かいるような気がして
空に何かありそうな気がして

そんな青空に向けて
掴む為ではなく
掴もうとする、その為に

ただ・・・・・・手を伸ばすだけ――――――







耳に届いてくる、チャイムの音。
それは、授業の終わりを示す合図。

体をゆっくりと起こし、首を廻す。
骨が鳴り、小さな音が聞こえたが、とりあえず無視。
コンクリートの上に寝転がるのは
少々、ワイルド過ぎたかもしれない。
軽い喧騒が、校舎とグラウンドで響いている。

初めてのサボリだった。
学校に来ているにもかかわらず、授業に出ないという意味において。
らしくない、と自分でも思う。
人に話せば、きっと呆れられるだろう。
いや、あるいは怒られるかもしれない。
高校生にもなって、一体何をやってんだ、と。





だが、収穫はあった。
ずっと忘れていた、空の色を思い出せたのだから。



「さて、と・・・・・・」



体を、コキコキ、と鳴らしつつ、
扉の前に立ち、ノブに手を伸ばす。
届く場所にあるそれは、容易く掴む事ができた。
そして、扉を開いた。
その先に待つのは、平穏な日常。



「・・・・・・生きます、か」



校舎へ戻る前に、ふと、空を見上げた。
空は、変わらずに広がっている。
高く広く、青く深く、蒼く遠く。





それは、空に向けた言葉か

それとも、空に見る誰かに向けた言葉か

あるいは、その両方なのか





横島にはわからなかった。
わからないままに唇を動かし――――――背で聞く、扉の閉まる音。
空と分けられた事に、少しの寂しさを感じながら
けれど振り返る事も無く、横島は階下へと降りていった。










――――――――――またな