本日 49 人 - 昨日 41 人 - 累計 182508 人

春夏秋冬

  1. HOME >
  2. 創作2 >
  3. 春夏秋冬




春は花 夏は鳥 秋は風 冬は月

それぞれに趣は違えども 四季折々の雅在り










春の花といえば、誰もが桜を連想するだろう。



花見の際、桜の舞い散る様を身上げる彼女の姿。

幽玄な面持ちすら有り、瞬時、我知らず息を呑む。

春風に流れるは亜麻色の髪。微かに細められしは翡翠の瞳。



まさしく春の嵐と言うべきか、花弁が舞い踊る中にて

視線を戻した彼女から、此方へとかけられた視線。

ほんの一時目を見張り、頬を桜の色に染め

口を開けど無言のままで、バツが悪げに睨んだ後に



恥かしげに浮かべた微笑みは

美しき神の名に相応しく

自分の頬は桜花の如くに染められた。










夏の空に鳥が飛ぶ様など、爽快という言葉に相応しい。



可愛い麦藁帽子を被り、此方へと微笑みかけてくる少女。

新しい彼女の魅力に気付き、意識するより早く頬が赤らむ。

夏の陽光に照らされる黒髪。紺碧にも映る烏の濡れ羽色。



雲一つ無い夏空に向けて、名も知れぬ鳥が翼を広げて飛んで行く。

偶然に見つけたその姿を、彼女と肩を並べて見上げた。

高く、蒼く、広く、遠い空。その中を飛ぶ一羽の鳥。

いや気付いてみれば、何処からともなく飛んで来たもう一羽。



そうして初めて見る、鳥の衝突。

その二羽の姿が、何処となく昔を思い出させ

ふらふらと飛び去る鳥たちを見送り、彼女と一緒に笑い合う。










秋風に舞う木の葉は、何処までも心を落ち着かせてくれる。



走る少女が巻き起こした風に、落ち葉は再び空へと舞い上がる。

遊ぶように踊るように、くるくると、くるくると。

落ち葉が触れしは白銀の髪。掻き揚げられたるは一房の朱。



掌より放たれた光刃にて、枯葉は微塵に散らされた。

その立ち居振舞い、勇ましくは在れども

褒めて、とばかりに反らされた胸を見て

二重の意味にて、まだまだ子供、と苦笑を一つ。



不満げにする弟子に近付き、軽く頭を撫でてやる。

途端に輝く表情に、振りたくられる尻尾。

そんな彼女に気付かれぬよう、まだ髪に残る枯葉を払った。










冬の夜に浮ぶ月は凛と冴え渡り、静謐な佇まいで大地を照らす。



夜の道端で立ち止まり、何をするでもなく空を見上げる少女の横顔。

大人びた風情でありながら無垢な子供でもあるように見えて。

九つに纏められた金色の髪。闇夜の月影に映える九尾。



言葉を交わすことも無く、視線を交わすことも無く

静かに流れる時間の中、ただ瞳の向かう先だけが等しく

一度だけ、興味も無さそうに此方へと向けられる目。

けれど結局何も言わず、再び視線を夜空へ戻す。



興味が失せたか、確認も無しに歩き出す。

此方を気にもせず、歩き去ろうとする彼女に

闇に包まれた夜の空で、孤独に輝く月を想う。










春は美の名を冠せし女神

夏は氷室の名を持つ少女

秋は無邪気で気高き人狼

冬は優しくも悪戯な妖狐



それぞれに過ごせし思い出は異なれど

それぞれに確かなる輝きを放ちながら

長くも短き一年という時を生きて行く



邪なる名を担う、少年と共に