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静かな秋風が、音も無く心を通り過ぎた。

閉じた瞳には、ただ秋の匂いだけが映る。

変わる季節に、流す涙など持ちはしない。



けれど―――――――――――










金の葉が、空に舞う。
銀の杏が、地に落ちる。
一定の間隔で植えられた木々。
その間を歩いている男が一人。

歩く度に、脚は金色の絨毯を踏み締める。
自然によって作られた歪な色彩。
地に落ち、土に塗れ、雨に濡れ
けれど、その本質たる美しさは変わらない。
避けようともせずに、その上を歩いて行く。
気にしていない訳ではない。
時折、視線を下へと向けて。
だが、歩みは止まらない。





青空は次第に色を薄め
黄が混じり、橙へと移る。
地平へと沈み行く朱。
夕暮れの空に浮ぶ雲。

黄昏は、何時も物悲しさを感じさせる。
秋という季節は、それを更に深めている。
物言わぬ真紅に染まる景色。
喧騒を閉じ込めている静謐。
無言に形作られた空間の中。
それでも足は止めず
それでも先へと進み
視線は、夕焼けの空へと。





色彩に、群青の色が混じり始め
世界は、夜へと塗り替えられる。
紅は蒼へ移り変わる。何の音も無く。
ただ秋風が過ぎるように。

そこで、立ち止まる。
歩いていたのか、逃げていたのか。
答えは出ない。
答えは出せない。
答えは何処にあるのか。
空を見上げても、もはや残滓さえ無く
過ぎてしまった時は、心にしか残らない。
目を閉じる、瞳の裏に映るのは
あの日見た、昼と夜の隙間。
一瞬しか見ることの出来ない狭間。
だからこそ、その瞬間は美しい。
儚さは美しさであると知り
だが、それを知りながら、なお
夜の縁に夕焼けを望む愚かしさ。








「――――――――――秋だから、かな」








詮方ない事を呟き
夜の海をただ一人で
ぐいと目元を指で擦り
再び、先を見据え、歩み始める。



未だ見ぬ、朝焼けの世界を目指して。