それでも私は人ですか?
私は、私に向けて問いかけを放ちます。
繰り返し繰り返し、同じ言葉で形作られた問いかけを。
私には、血も涙も有りません。
私には、肉も骨も有りません。
瞳も、鼻も、耳も、口も、肌も
毛も、爪も、腕も、脚も、頭も
そもそも、肉体そのものを私は持っていません。
――――――――それでも私は、人ですか?
この世に私が生まれ落ちたのは、もう随分と前。
人の手によって創られた魂、人工的な幽霊として存在を受けたこの身。
幽霊として生まれるというのも、可笑しな話かもしれません。
霊魂とは、死して後にこの世に留まるのでありましょうから。
かといって死に落ちるというのも、また可笑しな物言いではあります。
人が死ねば、人の霊と成りましょう。
動物が死ねば、その動物の霊と成りましょう。
けれど、私は生まれながらの幽霊です。
故に、私に生前というものは御座いません。
人として生きた経験というものは御座いません。
――――――――それでも、私は人ですか?
人工物として生を受けたのは、私だけでは有りません。
Drカオスの手によって創られた、マリアさんもそうです。
けれどこの問いかけに対して、恐らく彼女は首を横に振るでしょう。
彼女と一緒に過ごしたのは短い時間ではありましたが
人として生きるのではなく、人と共に生きる事を望むと思うのです。
そんな彼女と違い、私は人としての外見さえ持ちません。
生命を感じさせない無機質な、屋敷こそが私自身。
屋敷が無くなれば、私という存在は消えてなくなるでしょうか。
それとも何かに取り憑いて、在り続ける事が出来るでしょうか。
――――――――――それでも、私は人ですか?
私には肉体が有りません。
私は生きていた事が有りません
私は人の外見を持ちません。
けれど、かつての私には父が居ました。
私は体を持たず、けれど自分自身の名前と戸籍は在ります。
それは父が私に贈ってくれた、掛け替えの無い大切もので。
そして、今の私には皆が居ます。
私に過去の生は無く、けれど今此処に在る時間は確かで。
それは皆が私に伝えてくれる、掛け替えの無い大事なもので。
現在における幸せを実感し、過去を振り返り懐かしみ
自身と父、そして皆を繋ぐ絆を想う、その度に
私は、人間という言葉の持つ意味を深く感じるのです。
そして今日もまた。
オーナー達が皆揃って仕事に出かけ、残された私は
無言のままに、何度も繰り返した問いかけを致しました。
人工的に創られた魂であり、魂でしかない私。
それでも、私は人ですか?
ええ――――――――それでも、私は人なのです