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妄想循環

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―――――――――――誰か止めて下さい。

出来心だったんです。ちょっと魔が刺しただけなんです。

興味本位だったのは認めます。謝って住むものなら土下座だってやりましょう

だから・・・・・・・・・・誰か助けてください。本気で。










「・・・・・・横島君。
 何で怒気垂れ流しにして『栄光の手』出してるのかしら?」

「・・・・・・美神さんこそ。
 何で怒気ばら撒きながら神通棍握り締めておられるので?」



事務所にて、横島と美神は笑顔を付き合わせていた。
おキヌは買い物に出ていて此処には居ない。
急ぎの仕事は無くやるべき事も取り立てて無い、穏やかな昼下がり。
普通ならば一日の内で、最も一息つくに相応しい時間帯だろう。
だが、彼らの纏う雰囲気は一触即発。一言で言うなら覚悟完了。
浮べている表情は笑顔だ。それはもう弾けんばかりに。
傍から見れば、微笑ましい風景と言えるのだろう。
その背に竜虎さえ背負っていなければ。










魔が刺しただけなんです。

少しだけ、そう、少しだけ思ってしまった事。

それを口にしてしまっただけなんです。神に誓ってそれだけです。

嗚呼、それがこんな事になるなんて・・・・・・・・・・・・・・

てゆーか、巻き込んで御免なさい。シロさん、タマモさん、鈴女さん。









「・・・・・・・・横島君。
 どーして文珠がぽこぽこと生成されてるのかしら?
 しかも、手のひらだけじゃなくて体を覆ってる霊気からだし」

「・・・・・・・・美神さんこそ。
 どーして神通棍が鞭に変わっちゃってるんですか?
 しかも、一部雷に変化してるのかバチバチ放電してるし」



横島の放つ霊力は悪魔すら切り裂かんばかり
美神の放つ霊力は神族さえ打ち倒さんほどで
今のこの二人に勝てるなら、その場で世界最強を名乗れようほどの
絶対的に手を出しちゃならん雰囲気を垂れ流しにしていた。
竜虎相打つなどという言葉が在るが、竜と虎とが手を組んだならば
もはやその相手は、逃げるより他の選択肢などあるまい。
横島の一番弟子にして彼を心から慕う人狼、犬塚シロ。
見た目には常に冷めた雰囲気を見せる妖孤、タマモ。
この二人でさえ揃って部屋の隅へと集まり、動物形態でガタガタ震えている。
鈴女に至っては、バルサン焚かれたかのように床でピクピクしている。
そう、美神と横島の二人は互いに敵ではない。怒りの焦点はもっと別の所。










・・・・・・・・・ええ、ちょっとした思い付きだったんです

おキヌさんに恋人が出来たら、お二人はどう思うのかなぁ、って。

しかも、それが知らない人だったりしたらどうなるのかなぁ、って。

皆に愛されてる彼女だから、ずっと三人でいた彼らだから。

きっとお二人は嫉妬しちゃうのかな、って。

恋人を取られるとか、そういうんじゃなくて

むしろ仲のいい友達が、自分の知らない友達と遊んでいるのを見る時というか

自分に優しくしてくれる目上の方が、他の誰かにはもっと優しいのを知った時というか

何だか取られちゃうような気持ちが生れてしまって、幸せを願いつつも納得できない。

そんな矛盾した感情に、自分自身がやきもきしてしまう様子。

そんな微笑ましい光景が見れるかも、ってそんな事を思っただけなんです。












「・・・・・・・・・おキヌちゃんですもんね。
 幸せになれんかったら、そら世界が間違えとるでしょう。
 つーか、幸せにならん未来なんぞ許さんし」

「・・・・・・・・・そうよね。
 あの子が幸せじゃないなんて、誰だって嫌でしょう。
 ていうか、誰かがじゃなくて私が嫌だし」



確かに、GSという職につこうとしている彼女の傍に立ちたいのならば
最低限度の能力は必要だろう。せめて自分を守れるくらいには。
人には想像力というものが備わっている。特にこの二人には無駄な位に高性能な奴が。
彼等の脳裏に展開されているのは、おキヌちゃんと付き合う男の姿。
だが、それは横島でもなく、それどころか見知った男の誰でもなく。
顔も解らんかったそいつは確かにコッチに向けて、勝者の笑みを浮べていた。
妄想の中では、名も顔も知れん男がおキヌちゃんに手を回していた。
抱き合う二人。でも相手は見ず知らずの男。




「あははははははははははは」

「うふふふふふふふふふふふ」



美神の名が示す通り、その笑みは美しい神の如く
だが、放つ冷気は神の悉くを滅ぼさんばかり

横島の名が隠す通り、その笑みは邪なる魔の如く
だが、放つ殺気は魔の全てを消し尽くさんばかり










――――――――――甘い考えでした。ええ本当にダダ甘でした。

もうこのお二人何といいますか、おキヌさんコンプレックス?

いえ、彼女に対する想いが深かっただけならまだマシだったのでしょう。

オーナーが煽ると横島さんがこめかみ引き攣らせつつも答え

横島さんが更に持ち上げると、オーナーが口元歪めながら返すという

まさに想像の悪循環、妄想のスパイラル。

加速度を上げ続けるそれは、近いうちに衝突事故必至。

今現在のお二方の脳内を見たいような見たくないような。

・・・・・ええ、現実逃避です。したくもなりますとも。










「『ちょっと想像してみませんか』かぁ。
 いやー、有難うね。本当に彼女を大事に思ってる自分に気付けたわ」

「俺もッスよー。勿論、おキヌちゃんは好きですけど。
 まさかここまでとは、自分でもびっくりです」



「嫌な想像とはいえ、得るものはあったわねー」

「ホントにそうですねー、嫌な想像とはいえ」








「ねぇ」

「なぁ」












「「人工幽霊壱号」」



ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――――――――――――プツッ