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ヒメハジメ

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何時か、何処かで、誰かが言った



――――――初恋は実らない



その言葉を初めて知った時

訳も解らず、哀しくなった

初恋には、成らなかった筈なのに












鬼道政樹。
六道女学院の教師にして、優秀な式神使い。
鬼道家に代々伝わる、人型の式神『夜叉丸』は
紙から創られる式などでは、到底及ばぬ力を有している。
才能という点では、十二神将を抱える六道家に劣るが
それでも弛まぬ修練を続けた努力家でもある。
天才よりも秀才肌、教師としては的確とも言えよう。
そんな彼は現在



「・・・・・・・・・ぁ。
 お花、畑が・・・・・・・・・綺麗や、なぁ」

「鬼道さーーーーーーーん!!!
 現世に帰ってきて下さいーーーーーーーーっ!!!!!」



突撃あの世で晩御飯をかましていた。具体的には臨死体験。
六道邸に勤めるメイドのフミさんが、傍で涙目になって叫んでいる。
声をかける先は、床にぶっ倒れてエクトなプラズムを口から出している鬼道。
その横には、仲良く夜叉丸も同じ様な姿で倒れ伏していた。
仰向けになって、焦点の合ってない瞳を中空に向けつつ
痙攣しながら笑っている二人の姿は、傍目にも色々とリーチ気味。



「きゃはははは~~~~~~♪」

「「「「「シャギャァァァァァァァァァァッ!!!!!」」」」」



その間にも振袖姿の破壊神が、周囲に絶望を振り撒いている。
破壊神、すなわちお屠蘇を飲んで酔っ払った六道冥子は
それはもう輝かんばかりの笑みを浮べながら
己が式神を以って破壊活動を楽しんでいた。レッツブレイクダンスばーい12。
薄れ行く思考の中、鬼道は思った。冥子ちゃん、今年は寅年やなくて戌年やで、と。

鬼道政樹は優秀な式神使いである。
彼の使う夜叉丸は、優秀な式神である。
だが、どれほどの秀れた才を持とうとも
人というスペックでは、天災には勝てないのである。















時は一月二日。
身も心も休める元旦を経て
新しい年を迎え、様々な事柄が始められる日。
例を挙げれば、仕事始めやら書き初めやら。
そして六道家においては、母による説教初めが行われていた。



「冥子~~~~~~~~~!!!!!
 新年早々貴方という人は~~~~~~!!!」

「だってだってぇ~~~~~~。
 お酒を飲みたかったんだもの~~~」

「理由になってません~~~!!!」

「ふえ~ん、お母様ったら怒ってばっかり~~~」



怒っているが、間延びした口調のせいで怒っているように見えない母。
泣いているが、同上の理由で笑っているようにさえ見える娘。
似たモノ同士というか、どっちもどっちの親子である。
その二人の横では、暴走受け初めを果した鬼道がヒーリングを受けていた。
傷を舐めて癒す力を持つ式神、ショウトラの頭を撫でてやりながら



「ショウトラ、僕はもうええわ。
 代わりに夜叉丸を治療したって」

「もう宜しいのですか?
 このような場での遠慮は、決して美徳などではないのですから
 ちゃんと治して置くに越した事はありませんよ」



先程、鬼道の傍で叫んでいたフミさんが
感心半分、心配半分、隠し味に呆れを混ぜた表情で聞いてくる。
ショウトラの力を信じてない訳ではないが
以前、暴走ですら無い『鬼ごっこ』に巻き込まれた鬼道が
三日間入院した事を思えば大袈裟な反応とも言えまい。



「うん、新年の挨拶で顔出した途端
 暴走に巻き込まれるとは思わへんかったけど
 何ちゅーか、その・・・・・・慣れてきたし」

「・・・・・・・ご愁傷様です」



そっと涙を拭うフミさん。
たまに『遊び』に付き合わされる鬼道、その経験値は伊達ではない。
流石に今回のような突発事態に巻き込まれては
命を大事に、としか言いようも無かったが。



「全く~~~。
 政樹ちゃんだったから良かったようなものの~~~」

「いや、良くはないと思うんやけど」



というか、思いたい。基本的人権を何と心得る。
あと、『ちゃん』て何だ。『ちゃん』付けて。



「え~、それなりに優秀な式神使いなら
 式神の攻撃をある程度反らせるでしょ~。
 怪我はするかもしれないけど、死ぬ危険までは無い筈よ~
 没落家系最終地点な鬼道ちゃんだと無理そうだけど~
 十二神将を六匹も従えさせた政樹ちゃんなら大丈夫と思って~」

「・・・・・・・・・・それやと僕も鬼道ですよ。
 父さんの事を指し取るんやったら、ノーコメントにさせて貰いますが」



むしろ首肯したかった。それはもう、凄い勢いで。
言葉を重ねる代わりに、鬼道が半眼で見詰めてみても
のほほん、と六道夫人は優しくも軽く微笑み返してくる。
冥子を叱っていた事など無かったかのように。
その様子に、鬼道は溜息を吐きたくなった。
結局、甘いのは冥子の父親ばかりではないのだ。
六道夫人もまた、厳しくしているようでいて甘い所が多々ある。
いつもの事といえばいつもの事だし、別にさほど怒っている訳ではないのだが
GSとして仕事を請け負うならば、もう少し以上成長する必要があるだろう。
ここは鬼道の名の如く、心を鬼にしてがつんと言ってやらねば。
友達として必要なのは、優しさばかりではあるまい。



「ええかな、冥子ちゃん。
 新しい年も迎えたんやから、もうちょっと自制せなあかんよ。
 暴走の結果、GS辞めなあかんようになったら嫌やろ?
 ここは一つ、去年起こった色々を反省した上で
 年間通しての目標とか立ててやね」

「ね~、お腹空いたからお餅食べましょ~」

「そうね~、たくさん有るから早めに食べないと~」

「・・・・・・・・・聞いてぇな、頼むから」



あっさりと娘ばかりか、その母にも無視される鬼道。
そんな様子を哀れに思ったか、フミさんがぽんと彼の肩を叩いていた。











新年の挨拶回り、とはいっても鬼道政樹に親類は少ない。
精精が、自分を見捨てて田舎に隠居した父とか
あるいは、父に付いていけず家を出た母とか。
前者には出向きたいとも思わないし
後者は生きているのかさえも定かではない。
よって就職や生活など、色々と世話になっており
また、新年の挨拶を交したい相手も居る六道家へとやって来たわけである。
出会い頭に吹き飛ばされるのは、幾らなんでも予想外だったが。

そんな鬼道は、某煩悩少年ばりの速度で傷を癒した後
何とも手持ち無沙汰な時間を過ごしていた。
六道親子は、別室にて他にやって来たお客の応対をしている。
挨拶も終えた以上、すぐに帰っても良かったのだが
正月の今、家に帰った所でやる事がある訳でもない。
ゆっくりしていって~、との言葉に甘えているのが現状だった。
さりとて、邸内を勝手に徘徊する趣味は無い。
結局何をするでもなく、ただただぼんやりと
窓の一つから、広大な六道邸の敷地を眺めていた。
かつて、六道家と式神を奪い合った果し合いの場。
ふっ、と小さく笑った鬼道は、懐かしげに目を細ませて





「あれから、もう十二年も経つんやなぁ」

「その台詞は危険球です、鬼道様。
 『いくら頑張っても某漫画家は二流止まり』と口走るぐらいに」





しみじみと呟いた鬼道が、何時の間にか傍に来ていたメイドに窘められる。
しかし、窘めとするにはギリギリの発言は、しばしの沈黙で周囲を満たした。



「・・・・・・僕は何も言わんかったし、聞かんかった」

「・・・・・・私は何も聞きませんでしたし、言いませんでした」



二人して頷き合い、無かった事にする。
そうしなければ、カミナリが降りそうな気がしたし。
とりあえず話題を変えよう、と鬼道は口を開き



「えーと、フミさんは六道夫人付きのメイドですやろ。
 傍に控えとらんでええんですか?

「奥様のお言い付けですから。
 鬼道様が暇を持て余されてるのではないかと」



まさにその通りで、意図せぬ苦笑が浮んだ。
それに微笑みで返したフミさんは
メイド服とは不釣合いな皿をテーブルへと置いた。
その上には、十個を軽く超える餅が盛られている。



「たくさん頂きましたのでどうぞ。
 砂糖醤油に黄粉、他にも色々と・・・・・・
 ・・・・・・あ、あの、何故泣かれるのですか?」

「いや、正月に餅食べれる幸せが目から溢れて」



僕は人生の勝者なんやなぁ、と式神まで出して感涙に咽ぶ。
その感想が浮んでる時点でルーザー確定では、とフミさんは思った。
しかし、わざわざ口にはしない。だってメイドですもの。
美味しく食べてくれる事を切に願うばかりである。
早速、鬼道は一つを口にしながら



「この餅は、今来とるお客さんが?」

「いえ、今お越しに成られてるのは神父様です。
 こちらは横島様からの頂きもので」

「へー、美神さんとこで餅つきでもしたんやろか」



神父から貰った可能性を潰してる点は、どうかスルーして頂きたい。
この世には有りえない事というのが存在するのだから。
話しながら、二個目に手をつける鬼道。満面の笑みを弾けさせつつ。
そんな彼の様子を、フミさんはお茶など汲みながら微笑ましく眺めつつ



「失礼ながら、その時に横島様だけではなく
 美神様も一緒に来られていれば良かったのですが。
 そうしたら、お嬢様もお酒を召されなかったかもしれませんから」

「へ?
 何で、横島君が餅を持って来たのと
 冥子ちゃんが酒飲んだのとが繋がるんです?」

「つまり、自棄酒のようなものなのです」



話してる内に、その時の事を思い出したのか
ほぅ、とフミさんは溜息を吐き



「時に鬼道様、お嬢様の格好を見てどう思われましたか?」

「い、いや、どうって・・・・・・・・!
 まぁ、綺麗やったと思うけど」



突然の質問をされるも、頬を赤らめて素直に答える鬼道。
正月という事で、振袖姿となっていた冥子の姿が脳裏に浮ぶ。
外見だけならば何処に出しても恥かしくないくらいに、お嬢様然としていた。
言動は子供っぽいとはいえど、やはり大人の女性なのだ。



「はい、私も振袖姿のお嬢様は綺麗だと思います。
 そして綺麗な自分を見て貰いたいというのは女性の本能です」

「本能なんですかっ!?」

「本能なのです」



断定されたよオイ。



「お嬢様は、格好を褒めて頂きたかったのでしょう。
 それで新年初のお客様を美神様かと早とちりし
 喜んで迎えてみれば、来られたのは横島様お一人。
 その横島様も何やら急いでいたようで
 直ぐ大八車を引いてお帰りになられましたので
 拗ねてしまわれたのでしょうね」



六道邸に訪れた時を思い返してみる。
『次は妙神山ーーーーっ!』とドップラー効果を効かせながらの叫びは
どうやら鬼道の聞き間違いではなかったようだ。
その後、お屠蘇を飲んだ冥子と鉢合わせした訳か。
しかし、それは何と言うか



「・・・・・・・・・・我侭やなぁ」

「ええ、全く」



完全に子供の行動である。
いや、酒を飲める年齢に達してる分、たちが悪いとさえ言えよう。
それでも苦笑で済むのは、冥子という女性を知っているからだ。
根性無く他力本願で無責任だが、どことなく憎めない。
無邪気とは、ともすれば最強と同義なのかもしれない。
鬼道の場合は、他の弱みも有るかもしれないが。
それを自覚したか、微かに頬を赤くして茶を飲もうとした。



「ですから・・・・・・・・・・」



鬼道が唇に当てた湯飲みを傾ける。
飲もうと口に含んだ、その瞬間を狙って



「そういった我侭も許容出来る方。
 あるいは、お嬢様の我侭に耐えられる方が
 お相手として相応しいと、私などは思うのですが?」



ぶっ、と飲みかけていた茶を噴出した。
むせ返る鬼道を涼しい目で見やり、噴いた茶を拭き取るフミさん。



「マーくん~、お待たせ~~~」

「お疲れ様です、お嬢様」



涙目の視界の中、入って来る冥子が見えた。
何事も無いかのように、フミさんは一礼。おのれメイド。



「どうしたのマーくん~~~」

「な、何でもないよ。
 ちょっと茶がハイにフォールダウンしただけやから」

「テンションが高いの~?
 そんな事より、マー君は今日暇~?
 暇なら一緒に遊びましょ~」



朗らかに冥子が言う。鬼道からすれば断る理由も無い。
死の危険までは無い、無い筈だ、無いといいなぁ。
そんな風に覚悟を決めながら、一緒に部屋を出ようとする。
フミさんの横を通る際、小声で聞えた言葉は



「ちゃんと、ご自分のお気持ちを伝えて下さいね」

「・・・・・・・アドバイス有難う御座います。
 修行ばっかしとったせいか、どうも僕はこういうんが苦手で」



同じく、鬼道は小声で返す。
そして二人が出て行った後、フミさんだけが部屋に残された。
後片付けをしつつ、彼女は少し前の記憶に思いを馳せる。
外からでも、破壊音で暴走している事くらいは気付いたろうに
勢いよく飛び込んで来た結果、見事、直撃を食らった鬼道。
その理由が、中の様子が心配だったから、と来たものだ。
意識を取り戻した際、自分の身をまず心配して下さい、と告げた時の
彼の情けない笑顔を一緒に思い出しながら、フミさんは笑みの混じる声で呟いた。



「先程、助けて頂いたお礼ですよ。
 お嬢様を宜しくお願い致します」















「それで冥子ちゃん。
 今日は何して遊ぶんや?」

「え~とね~~~~、お正月だから~~~」



さてさて、今日の遊びは何だろうか。
経験から言うとかくれんぼ、あるいは鬼ごっこ。
かくれんぼならば、まだ楽な方だ。
見つけられた瞬間の一撃を避けられれば
怪我もしないで済む可能性が高い。
戦闘能力の低い式神が鬼になってくれれば、言う事無しだ。
問題は霊視能力を持つクビラが鬼となった場合、すぐに終る事だが。
これが鬼ごっことなると、危険度が跳ね上がる。
逃げる立場でも、鬼の立場でも、ただ傍に居るだけで怪我をしかねない。
時速300km、亜音速、戦車並のパワーなどという相手をどうやって触れと。
此方だと大怪我をしないように、手加減を頼む必要がある。
もしくは、別の新しい遊びという可能性もあるか。
新年だから、と言ってるようだし。
しかし、冥子から漏れたのは予想外過ぎる発言だった。



「ひめ始めしましょ~」

「ブゥッ!!!!!」



破壊力抜群の単語を聞かされ、盛大に噴き出す鬼道。
鼻血は辛うじて噴かなかった。危なかったが。



(お、落ち着け! 落ち着くんや鬼道政樹!!!
 素数を、素数を数えて落ち着くんや!
 素数は1とそれ自体でしか割り切れない孤独な数!
 親にも見捨てられた孤独な僕の心を落ち着かせてくれる!
 ってじゃかましぃわ心の声っ!!!! )



11まで数えた辺りで正気に戻った。
隣を歩く冥子の顔を覗き込む。
にこにこと笑う顔は、本気か冗談かの判別が難しい。



「あの、冥子ちゃん?
 意味解って言うとる?」

「勿論よ~」

「本当に僕でええの?
 後悔したりとかせぇへん?」

「マー君がいいの~~~~。
 マー君じゃなきゃ嫌~~~」



ぷるぷると首を振りながら、主張する冥子。
心がぐらりと音を立てて動いた。
脳内でメイドさんが耳打ちしてくる。
我侭を許して挙げなきゃいけませんよー喧しい。
色々ギリギリの状態で、鬼道は辛うじて口を開いた。



「ぼ、僕はその・・・・・・・・・」

「ね~、いいでしょ~~~」



言い澱む鬼道だが、冥子は構わず畳み掛ける。
振袖姿の上目遣いに、きゅっと此方の服を摘む指。
瞳は微かに潤み、何処と無く切なげな表情を浮べ。
ねだるように、少し突き出された唇は紅く。
見下ろした先、襟元から覗き見る肌は白く。
そうして追い詰められた鬼道に、抗う術はもはや無く
こくん、と無言の肯きばかりしか返せなかった。



(ぼ、僕は今日、男に成ります――――――――――――!?)














ぽっくりぽっくり、ぽっくりと。
十二神将における午の式神、インダラが
六道邸の敷地をゆっくりと歩いている。
その上には、男女が一名ずつ。
ほえほえした春の如き微笑みを浮べた冥子と
冬の寒さを表すように、顔を引き攣らせている鬼道。
二人して、肩を並べて馬上に座っている。



「えーと、冥子ちゃん?
 今僕等が何やっとるんか、聞かせてくれへん?」

「え~、何を今更~~~。
 飛馬(ヒメ)始めじゃないの~。
 今年初めてインダラちゃんに乗るから
 マーくんも一緒に、って思ったのよ~。
 何か変だったかしら~」

「あははははは何でも無い何でも無いようん。
 解ってる解ってたんや解っとったわコンチキショー!!!」



冥子は一言たりとて嘘はついてない。
しかし、滂沱の血涙を流しまくる鬼道を誰が止められよう。
その紅さは、言わば悲しみが燃えているかのよう。
男としては解らないでもないが、場所が悪かった。



「ま~くんは楽しくないの~?」



横に座る冥子が不安げに聞いてくる。
その顔を見て、鬼道は先の行動を少しばかり恥じた。



(あー・・・・・・僕は馬鹿か?
 正月の日、存分に餅を食えて
 冥子ちゃんの綺麗な振袖姿も見れて
 おまけに、こんな傍に座れとる。
 それで僕は何、不幸な自分を感じとんや。
 昔を思うまでも無く、めっちゃ幸せやないか)



除夜の鐘で払われた煩悩が、早くも新しく生まれているようだ。
ピンクな方面に考えが囚われていた事を反省し
無理して表情を作るのではなく
心の赴くままに、それを表情とした。
無論、想いは自然に優しい微笑みと成る。



「楽しくないやなんて、そんな事ないよ。
 こうやって冥子ちゃんと一緒に居れて
 僕は心から楽しいし、幸せなんやから」



自然に手は動いて、冥子の頭を優しく撫でた。
不安げな表情は、陽光に晒された雪のように解け
後には、花のような笑顔が残される。
その間、ずっと鬼道は彼女を撫で続けていた。
手を肩に回したい衝動を押し止めながら。



「インダラに乗せて貰うんも初めてやしな。
 それに、その振袖もよぅ似合っとる。
 綺麗な冥子ちゃん見れて嬉しいわ」

「ホントに~~~?」

「ホンマホンマ」



話の流れもあって、出来るだけ軽く口に出来た事で安堵する。
実際、大した台詞でもない。素直な想いを言葉に変えただけ。
けれど、その素直さが本当に嬉しかったのだろう。
胸の前で自分の指を絡めた冥子は、輝くような笑みを浮べ



「えへへ~~~~~。
 マーくん、大好き~~~~」



頬を朱に染めて、静かに身を寄り添わせた。
服を介して、肩と腕が触れ合う。
冬の今日、厚手の服を着込みながら
それでも熱を感じるのは、強く高鳴る胸のせい。
彼女に瞳を向ければ、当たり前のように視線が合う。
返される視線に込められているのは
問いかけではなく、ただただ無邪気な疑問の形。
どうしたの~、と言いたげな表情に最後の覚悟を決めた。
鬼道は近くにある冥子の頭、その耳元に口を寄せて



「僕も―――――――――」



紡がれた声の続きは、静かに吹く風に紛れ周囲には響かなかった。
彼の言葉が聞えたのは、今、目を丸くしている冥子ばかり。











六道邸の敷地内

広さも極まる その中に

ポツリと動かぬ影一つ

男と女の飛馬始め



輪廻を意味する六道と

輪廻に染まらぬ鬼道との



どちらも頬を朱に染めて

視線を彼方へ飛ばしつつ

時に互いを見詰めはしても

合えば すぐさま反らし合う



全てが始まる一月二日

この日に恋は始まった

気恥ずかしくて仕方無い

誰かに話せる筈も無い



そんな二人の秘め始め















―――――――初恋は、実らない

何時か、何処かで、誰かが口にした言葉

それが本当だと言うならば

それが真実だと言うならば





僕は、何度でも恋をしよう

今もずっと、大好きな貴方に