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貧乏はつらいよ

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歩道を、大勢のガキが歩いとる
うっとーしい事、この上無しやで
あないうじゃうじゃ、どっからわいて来とんねん

どいつもこいつも、何人かでグループ作っとるみたいや
せやけど、そうやないんもおる
一人離れてとぼとぼ歩いとる、あのガキとかな
赤いランドセル背負って、俯きながら歩く三つ編みのガキ

ワイが憑いとる、花戸家の一人娘や
あのガキが、ワイはいっちゃん好かん





あ、自己紹介が遅れたな
ワイは貧乏神や
固有の名前はない、好きに呼んだってくれ





ワイは今、空中に浮きながらガキ共を見下ろしとる
独裁者、気取っとるわけやないで
あのガキがおるさかい、くくられとるワイは遠くに行けへんのや

もともと、ワイが花戸家に憑いたんは、あるおっさんのせいや
悪徳高利貸しやったそいつは、ぎょうさん金もうけとった
んで、その金の分だけ、大勢の人間が不幸になったんや
そいつらの恨みつらみが集まって、ワイが引き寄せられた
やけど、恨みが深すぎたんやろな
貧困の中、惨めにおっさんが死んだ後も、ワイは解放される事がなかった
花戸家そのものにくくられてしもたんや

かというて家の人間は一人やない
せやから、不幸な事にワイが大きく呪縛されるもんがおる
ワイも分裂なんぞできへんし
この場合、どっちにとっても不幸やな
ワイかて自由が欲しいさかい
で、今は、あのおっさんの曾孫にあたるガキに縛られとんや

すぐ傍におってもええんやけど、あん中入るんは勘弁やからな
あと、万一やけどワイを見れるやつがおるかもしれん
せやから、距離置いて見とるっちゅうわけや





ん?

なんや、あのガキ、そっちは家と逆方向やぞ
寄り道するにしたって、そっちは何もないがな
なんぞおきたんか?

とりあえず、ワイは下まで降りてきた
周りには特に何もないな
ワイに気付かんで、ガキ共も歩いていきよるし
やったら、何ぞおもろいもんでも見つけたんか?
と、思うた時に飛び込んで来よる話し声





「ちかくにいるだけで、ふこうがうつりそうだし」
「そーそー、みてるだけでむかついてくるもん」
「いなくなってほしいよね、あんなびんぼーがみ」
「そうよねー」





はあ、そういうことかい
どいつかはわからんかったけど、誰の事言うとんのかはわかるわ
ったく、これやからガキは嫌いなんや
ワイらが貧乏やと?
性根はおどれらの方がずっと貧しいわい
卑しいやったかな?
ま、どうでもええわ
だいたい貧乏神は、ガキやのうてワイの方やがな



んんん
やっぱ、これはワイのせいなんかな
はあ、しゃーない、探しにいったろ
このままほっとくんも目覚め悪いしな
・・・・・・断っとくけど、コレは情にほだされたわけやないぞ




大して遠くへも行ってへんかった
軽く飛んで探しよったら、すぐに見つかったわ
ちょいとばかし離れた公園に、あのガキはおった

まあ、どこまで行っとっても、絆がある限り見つけられるんやけどな
・・・・・・この、クソ忌々しい絆がある限りはな

黄昏に包まれて、紅く染め上げられとる公園
その一角にあるブランコに座っとる小さい姿
俯き加減で、きいきい揺らしとる
ほんっまに辛気臭い姿やのー




じっとしとっても、しゃあない
とりあえず話し掛けな何も始まらんな



「オイ、ガキ」



っていきなり、これはないやろが
あかん、ワイも結構緊張しとるわ
お、顔は上げよったな
よっしゃ、一応こっち向いたんやから結果オーライや

涙目でこっち見てくるガキ
ワイの姿なんぞ見飽きとるやろ
なんせ、嫌でも近くにおらなあかんし、
花戸家の奴等は姿消しとってもワイが見えるさかいな

まじまじ見たことなんぞあらへんかったけど、結構可愛い顔立ちしとる
ひょっとしたら、それに嫉妬されたちゅうこともあるんかもしれんな
まあ、それは置いといて、や
怯えとるみたいやけど、気にせんで続けたる



「泣いたらあかん、泣いたら負けやぞ
 どんなに悲しいても笑っとけ
 貧乏人には泣く暇なんてあらへんのや
 泣いてええんは、金持っとる奴等だけや」



言うだけ言うたったけど
ガキは何の反応もせえへん
わけわからん、とでも言いたそうに、こっち見返すだけや

しもた、外したか
難しかったんかもしれん
ええと、他のネタ、何かないか

そーいや、この前、花壇のとこでじっと立っとったな
確か、そん時見とった花は・・・・・・



「・・・・・・えーと、ひまわり好きなんか、お前」



ぴくり、と振るえる肩
よっしゃ、掴んだ
あとは一気に攻めるだけや



「綺麗やな、あの花は
 おおきゅう太陽に向かって背ぇのばしとる
 ワイら貧乏人が幸せ掴もうとするんと同じや
 ほれ、そんな顔しとったら、ひまわりに笑われんで」



我ながらどの面下げてぬかしとんやろなー
貧乏なんはワイのせいやっちゅうに



「ええか、ガキ。
 貧乏なんは認めなしゃあないんや。
 それ認めた上で、やりたいこととか欲しいモンとか考え。
 ほんで、いつか絶対手に入れたる、ちうて考えとけ。
 何も欲しいもんないんか、お前。
 あるんやったら、それ思い浮かべてみい。
 ほしたら、ちったあ頑張ろ、いう気になるやろ」



現実と比較してへこむかもしれへんけどな
やけど、このガキはそれなりに前向きやから大丈夫やろ

ガキは首ひねって、上向いた
まるで、見えんもんを探しとるみたいにな
ガキが言い出すんを、ワイは根気よう待ったった

しばらくしてから、顔戻すガキ
うん、もう泣いてへんな、ええことや
もじもじして、言い辛そうにしとったが、
じっとワイが見とったら、観念したんか、ゆっくりと口あけて



「あのね・・・・・・つばさがほしいの」



・・・・・・医者はどこやー
ってあかんあかん、錯乱してどないすんねん
何とか、当り障りない答えを返さな



「・・・えーと・・・・・・空でも飛びたいんかい
 でも、ふつーは羽やないんか、そーいうのは」

「・・・・・・・・・おうたであったから・・・・・・」



歌かー
やったら、ワイも聞き覚えあるわ
大空だか青空だかに飛び込みたい、とかいうやつやな



「なるほど、せやから翼なんか。
 まー、お前の名前も鳥の仲間やから似おとるかもな。
 他のガキ共から離れて、一人になりたいちゅーことか。
 ま、一人やったらいじめられもせんからな」



あ、失言やったかな
せやけど泣きもせず、ふるふると首を振りおるガキ
なんや違うんかい
あんだけ言われとって、まだ友達できると信じたいんか

それは、何ぼなんでも甘い考え方やで
あのガキどもの言い草、聞いたんやろ
貧乏神憑きが友人なんぞ作れるわけがないんや

せやけど、こんガキはこっち見て



「びんちゃんも・・・・・・」



待てや



「ちょいまち、びんちゃんって何やねん」

「・・・・・・びんぼーがみのびんちゃん」



・・・・・・・・断言するで
このガキのネーミングセンスはゼロやない、マイナスや。
貧ちゃんって・・・・・・・・・・そのまんまやないかい

ワイが葛藤しとるんを、ガキはきょとんと見とる
ううむ、せめて、ちゃん付けはやめい、て言うべきやろか
やけど、何とでも呼んでええ、と言うたことあるしなー
・・・・・・ええい、とりあえず、その事は棚に上げとこ
あんま時間かけたら、ガキが言う気なくすかもしれへんがな



で、結局、ガキは何言いおったかいうと










「びんちゃんもおそらとべるから・・・・・・・・」





・・・・・・・・・





あー、つまり何や
ワイと一緒におりたいんか?
貧乏神のワイと一緒に?

そら、一人よりマシかもしれんけど
ワイが貧乏の元凶やってわかっとるか?
ワイが諸悪の根源やってわかっとるか?

ワイら貧乏神は嫌われて何ぼなんやで
ワイに言う言葉とちゃうやろ、それは



お前のせいで、やろ
お前さえおらんかったら、やろ



今まではそうやったんやぞ
お前の爺ちゃんは、お前の父ちゃんは
そうワイに言いながら生きてきて、そんで死んだんやぞ

やのに、お前はそないな事いうんか
全く、アホなガキやで





・・・・・・・・ま、悪い気分やないけどな





ワイは何も言い返さへんかった
何言うたらええんか、わからんかったし
何言うたとしても足りひんような気ぃしたからな

そん代わりに手を伸ばしたんや
もう日も落ちてもうて、暗なってきとる
子供が外歩く時間やないで
んで、初めてガキの名前を呼んだんや




「・・・・・・・・・・ほれ、帰るで小鳩」



ワイらの家に、な










手ぇつないで、ワイらは二人、家路をたどっとる

勿論、飛んだ方が早いし、
小鳩くらいやったら抱えて飛ぶんも軽いもんや
けど、そうはせえへん

小鳩の夢叶えるためだけやったら、飛んだった方がええんかもな
せやけど、誰が見とるかもわからんから、それはできへん
夜中、空飛んどるガキがおったらどない思う?
夢やと思われたらまだええ
もし万が一、小鳩やと気付かれたら終いや

今でさえ、住民には家族ぐるみで貧乏神と思われとるんや
口にされんでも、そういう雰囲気は自ずとわかる
これで、そこの子供が空飛んどるなんて噂が流れてみい
大人は冗談としか思わんかもしれんな
それでも、迷惑がるんは確実や
これがガキやったら、更にたち悪い
口実さえ見つけたら、好き勝手しよるに決まっとる

そうや、何も変わったわけやない
これからも、あのガキ共は陰口叩くやろ
下手したら、いじめられるかもしれへん
口だけやったらともかく、手を出しおるかもしれん



ワイは何もしてやれへん
ワイは貧乏神やさかいな



・・・・・・・・せやけど

せめて傍にいたるわ
泣かへんように、悲しまんように

年季あけるんに、後10年くらいはかかる
その間、金が絡む事以外では
傷つかんように、傷つけられんようにな

ずっとツレの一人も出来んかもしれへん
恋人なんぞ、夢のまた夢やろ
何せ、貧乏神のワイがおるんやからな

でも、ワイがおらんようになったら
きっと、小鳩は幸せになれる

こんだけの器量良しなんや
おまけに、このまんま育ったら性格もええんやし
男連中は絶対ほっとけへんやろ
悪いけど、それまでは我慢したってくれ










ワイは、小鳩が好かんかった



泣いとる顔も
俯いとる頭も
悲しんどる姿も

何もかんも、好かんかった





でもな

ワイが、いっとー好かんかったんはな

小鳩をそうさせとる、ワイ自身の存在や





全く・・・・・・難儀なこっちゃで、ホンマ










ふと、何の気なしに空を見上げてみた
今日は雲ものうて、星や月が綺麗やなー
何より金がかからへんのが一番や

そんな風に見上げとったら、小鳩が話し掛けてきよる
流れ星?願い事?
残念やが、んなもん、全く見える気配は無いな
いやいや、うー、とか言われてもしゃあないがな
しかし、随分とろまんちっくな事やのー



・・・・・・願い事、か



ぼーっとしとったらろくな事考えんな
頭に浮かんだ戯言を、首ぶんぶか振って否定したった
・・・・・・あー、小鳩が可哀想なもん見る目つきでこっち見とる



気にすんな、ふと思っただけや










ワイごと小鳩受け入れれる
そんなアホがどっかにおらんかな、ってな