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この世はおとぎ話じゃない

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むかーしむかし、ある所に葵デレラという少女が居りました。



「いや、語呂悪すぎや」



知りません。関西風にデレヤとかしなかっただけマシかと。
とはいえぶっちゃけ読み難いので、以降は葵と略す事に致しましょう。
それはともかく、彼女は二人の姉にいつも搾取されておりました。
姉の名は薫と紫穂。同い年ですが姉です。
三つ子じゃなくても姉なのです。
設定矛盾はさておいて、具体的にはこのように。



「葵ー、今暇か? 暇だよな?
 んじゃ、宿題見せてー」

「ああ、教えてくれなくてもいいのよ
 ちょっと触らせてくれたら」



ああ、何と可哀相なことなのでしょう。
それなりに頑張って終らせた宿題だというのに
努力もせずに集る姉どもに対して、優しい葵でも怒りを抑える事が出来ません。



「あんたらなぁ・・・・・・・・
 人生の美味しいとこだけ摘み食おうと思うなっ!」



元祖灰被りと違って、葵は結構ポジティブに好戦的でした。
苛められようとて、そう簡単に負けるわけには行きません。
薫はサイコキノで動きを止めようとするのですが
テレポートで華麗に回避しつつ、更に葵は適当な何かを飛ばして応戦します。
紫穂は二人を止めようとする台詞を吐いてますが、そもそもやる気が感じられません。
そして今日もまた、超能力戦が繰り広げられるのです。



「ああ・・・・・また出費がかさむ。
 これって保険利くのかなぁ・・・・・・・はぁ」



これで崩壊は何度目でしょう。五回目から先は数えておりません。
まき込まれた彼女等の保護者さんこそ、いい面の皮でした。










そんなこんなで、一応は平和に過ごしていたある日の事。

ばん、と大きな音立てて開いた扉。
びっくりした顔の葵と紫穂が目を向けると
其処には、チラシを手にして部屋に飛び込んできた薫が一人。
興奮を隠しもせずに、はぁはぁと息を切らせております。
発情でもしやがったのか、と二人は身を竦ませつつ



「ちょっと、もう少し力に気ぃつけや。
 部屋のドアかて不死身やないんやで、うちらの保護者はんと違て」

「んなこたーどーでもいい!
 ちょっとコレ見てみろよ!!!」



眉を潜めた葵が窘めますが、薫は知った事かと言い放ちます。
そして、音立ててテーブルに叩きつけられたのは一枚のチラシ。




『舞踏会の案内状
 王子の生誕を記念して、今宵城内で舞踏会が行われます
 またその際に、結婚相手の選定も行う予定ですので
 淑女の皆様方は振るってご参加下さい』




「胡散臭っ! ちゅーか微妙にキモいわ手書きやしっ!
 こんなパチモン招待状なんか信じられるかい!!!」

「んな事ねーって!
 マジにコレは本物っ!!!」

「何でそんなに断言できるの?」

「だってコレ、王子様本人に貰ったんだもん。
 いやー、初めて実物見たんだけど結構美形なんだな」



大丈夫かこの国。
この時、話を聞いていた葵と紫穂との心はシンクロしました。
とはいえ、この案内状が本物であるとすれば、やる事など一つに決まっています。
鷹の目をした紫穂が、確認の意味を込めて薫に問いました。



「薫ちゃんは狙うつもりなの?」

「あったりめーだろ!
 上手く行ったら玉の輿でウッハウハ!
 こんなチャンス、見逃す手はねぇ!!!」

「・・・・・・・・・・一理在るわね。
 そうすると、ライバルを削り落とさないと。
 物理的に薫ちゃんと葵ちゃん、精神的には私が」

「金・・・・・・金かぁ」



次第次第に、ヤる気に満ちて行く姉二人。
それに看過されたか、瞳の形がドルマークになりつつある葵。
けれど、ギリギリのところで何とか正気を取り戻し



「けど、うちが行ってもええん?
 今日の家事、うちの当番なんやけど」

「何バカ言ってんだ、家族じゃねぇか。
 仕事なんて押し付ける為にあるんだよ」

「そうよ。こんな時くらい甘えてもいいと思うわ。
 仕事は変わってもらえばいいじゃない」



そんな二人の発言を聞いて、ほんのり目に涙が。
この時、押し付けられる相手がくしゃみをしたかどうかは定かでは在りません。
意地悪な姉でも人の心は持っとったんやなぁ、と葵は素直に感心し



「だいたい二人より三人の方が確率高くなるに決まってんじゃん」

「瞬間移動してくれたら、交通費も掛からないしね」



そして、抱いた全ての感動を地面に叩きつけて踏み躙りました。自然に帰れー。










さて、時は一気に流れて舞踏会前。
煌びやかなドレスに着替えた三人は、まさしく華のような美しさ。
ただ葵だけは如何せんみすぼらしくありました。具体的に胸。
不公平な世界にそっと涙しつつ、紫穂は葵に話し掛けます。



「さぁ、行きましょうかカボチャの馬車」

「誰の事指しとるんか、後でゆっくり聞かせて貰うでコラ。
 あと、その同情に満ちた視線はなんやねん」

「あらそんな不満そうな顔して。
 ネズミの御者の方が良かったの?」

「気ぃ使うところがずれ過ぎやろがいっ!!!」



大変仲がいいですね。まるで獅子の親子の如し。
努力を続ければ、意地悪な姉とも良好な仲を築けるという見本のようです。
そしてもう一人の姉、薫はというと贈り物の用意をしておりました。



「ふーむ、こんなもんでいいか。
 ちと惜しいが、まぁ出し惜しみするもんでもねーしな」

「何を持ってくつもりなん?」

「ああ、この前買った勝負下着を」

「捨てぇっ! 今此処で速やかにっ!
 誰にどーやって渡す気やっ!!!」



この時点で、葵はちょっぴり後悔しておりました。
家に残って居た方が、遥かに幸せではなかったろうかと。
でも、それももはや後の祭りです。
何せ他の交通手段の用意を何一つしてないのですから
ここで葵が行くのを止めては、二人に何を言われるか解ったものでは在りません。
二人だけ飛ばしたろか、という考えも浮んではおりましたが
自分が居ない場で何をしでかすかと思うとそれも無理。ガッデム責任感。



「あーもー、とっとと行くで!」



これ以上、変な物を持ち出されてはツッコミきれません。
そう判断した葵は、話を無理やりに打ち切り
現実から目を逸らすような勢いで、城へと向けて瞬間移動しました。
そして、三人が居なくなった家では



「あ、あれ? 掃除も洗濯も片付けもやってない!?
 くそ、せめて服くらいは畳んで行けばいいのに!
 だぁぁぁぁぁ早くしないと舞踏会に遅刻するぅぅぅぅぅぅぅ!」



己が潔癖さを呪いながら、保護者さんが後始末をしておりました。
彼が舞踏会に間に合うかどうか、それはまだ神ですら解りません。










「ふぅ・・・・・・・・・・」



舞台は移って舞踏会会場。
物憂げに溜息を付いた彼は、この国の王子様。
でも、身に付けてるのは学生服。その名も兵部。



「やれやれ、綺麗どころは多いみたいだけど
 これといって興味が惹かれないな。
 やはり、女性に一番必要なのはアレだね、将来性」



そんな王子様の脳裏に浮ぶのは、およそ十歳代と思しき少女。
はい、歯に衣着せず言ってしまいましょう。
社会的に、その感性はロリコンと呼ばれています。
でもいいのです。だって彼は王子様なのですから。権力主義万歳。



「ああ・・・・・・・・僕の女王は来てくれるんだろうか。
 案内状は手渡したけれど、必ずしも来るとは限らないし。
 いっそ連れてきた方がよかったかな、飴玉とかで」



社会的に、その行為は誘拐と呼ばれています。
でもいいのです。だって彼は以下略。
誕生を祝して開かれた舞踏会にも身が入らないようで
辺りを眺める王子の顔は、少々英気に欠けておりました。
すると遠くで兵士たちが何やら騒いでいる様子が目に入ります。
まさか、と思いつつも王子様の顔に喜色が浮びました。



「この聞き覚えのある爆発音、飛び交う悲鳴。
 ようやく来てくれたんだね・・・・・・・・僕の女王」



恍惚と呟くその表情は、大変幸せそうなご様子。
傍から見るとあたかも恋する少年にも見え
そして、真実を知る者にとっては立派な変態でした。










さて、視点を移しましょう。
葵たちは瞬間移動を利用して、舞踏会の会場前に突然現れました。
そんな彼女等を見て、控えた衛兵が叫ぶ事には



「お・・・・・・・お子様は魔女っ!?」

「誰が子供だコラァッ!!!!!」



爆発開始。吹き飛ぶ衛兵。阿鼻叫喚の地獄絵図。
いや言い過ぎかもしれませんが、真実の一端は担っております。
暴れ始めた薫を尻目に、葵と紫穂は舞踏会にゴー。
出来るだけ視線は向けないようにして、他人の振りは忘れません。
姉妹の絆? それって食べられますか?

会場に入った葵は、すぐさま眼鏡をギラリと光らせ
見た目にも高価な装飾品に目を奪われております。
指輪やネックレスばかりでなく、調度品なども素晴らしく。
可愛らしく微笑みながら、さぁどーやってギッたろか、と算段中。
この時点で王子様の存在は、脳内情報から削除されました。

同様に会場へと入った紫穂は、早速ダンスを踊っております。
美少女との舞踏に、相手もまんざらではないご様子で。
踊った後は一礼を。礼儀を欠かしてはなりません。
心の中で紫穂は呟きます。
いい醜聞(ネタ)が得られた、と。
そして次の獲物、もといダンスパートナーを探し始めました。
狙うは大臣クラス以上。最終的には王子。










「ははは、みんなお転婆だなぁ」



爆破の続く会場前を優しく見守りながら
王子様は、にこやかに言い放ちやがりました。
彼の瞳はブラインドを常備しておられるようです。
そんな王子様に、大臣である谷崎が大きく一つ頷いて



「いやぁ、同感です王子!!!
 私は常日頃より、娘に従順さと女らしさを求めてきましたが
 最近になって理解したのです。そう、娘に苛められるのもイイものだと!
 ああ、それわそれでたまらん理想形ーーーーーーっ!!!!」

「おーい、誰かコイツを牢屋へ」



王子様の命令で、速やかに大臣は地下牢へと送られました。
流石に、コレと同列に並べられるのは嫌だったみたいです。
まぁ話の展開には無関係ですので、早い所忘れましょう。










「くっそー、梃子摺らせやがって」



悪役そのものな台詞を口走りながら
雄雄しくも『薫、舞踏会場に立つ』です。
そんな彼女へと注がれる目は、折から解き放たれた猛獣を見るが如し。
何ぼ唯我独尊な彼女といえど、流石にこれだけ注目を集めると罰が悪いです。
ひそひそと囁かれる声は、小さいながらも微かに耳に届きました。



「や、やっぱり魔女(エスパー)なんか嫌いだ!
 ズルとかどーとかじゃなくて、単純に痛ぇし!!!」

「と、東野くん・・・・・・大丈夫?
 さっき、凄い勢いで空を飛ばされてたけど」

「でも皆が皆、あんなのじゃないのよ。
 暴れたりセクハラしたりするのは少数なんだから」

「ケダモノになったりするんも少数やな。
 ま、千切られんかっただけマシやと思って」



ここぞとばかりに他人の振りを決め込む姉妹たち。
そんな姉妹愛に、薫はこけそうになりました。
おんどりゃぁっ、と叫んでやりたい所ですが
主に自業自得なので、ここはぐっと我慢のしどころです。
しかし、そんな彼女にも天上からの蜘蛛の糸が。



「くすくすくす・・・・・・・・・
 何だか、みんなビックリしてるみたいだね。
 よかったら、僕と踊ってはくれないかな?」



蜘蛛の糸は、王子様の差し出した手でした。
薫が会場に入った時から出待ちに入り
タイミングを計ってのご登場。さすが王子。

王子様が来られると同時、動こうとする淑女の皆様もおりました。
しかし、その半分は葵による短距離瞬間移動で王子との距離を離され
更に半分は、紫穂による『お前の秘密を知っている』との呟きで行動停止。
先程までの不和は何処へ消え失せたのか、ナイス連携です。
グッ、と薫に向けてのサムズアップが二つ。レッツ玉の輿。
目の前の手に向けて、おずおずと薫も手を伸ばします。





「そうはさせるか、この変態メっ!!!」





しかし、突如と響いたその声が薫と王子様、両方の動きを止めました。
更に言葉は続きます。何処ぞの日本おとぎ話のよーに。





「一つ、人の世で萌え血を垂らし!
 二つ、ふらちなロリコン三昧!!
 三つ、淫らな若作りのジジィ!!!」





続けての破砕音と共に窓ガラスが室内へと飛び散り
其れと一緒に入ってきた人物は、筋骨隆々マッチョダンディ。





「滅してくれよう――――――――――桐壺泰三!」





魔法使い桐壺泰三、ここに見参です。
黒ローブがちょっぴり魔法使いっぽいですが
やっぱり魔法使いと呼ぶには、語弊というか激しく無理が。










「・・・・・・・いきなり何なんだい?
 君を招待した覚えは欠片もないんだけどね」



眉を顰めて、不愉快そうに零す王子様。
しかし、桐壺は全く怯みません。
いやむしろ怒りを増したか、荒々しく叫びます。



「喧しいぞこのロリコン!
 私よりも年上の分際で、何が花嫁ダッ!!!
 子供の未来を奪うなど、神が許してもこの私が許さンッ!!!」

「愛に年齢は関係無いよ。
 大体、君に許してもらう必要なんて無いね」



くい、と王子様が首を動かすと共に動き出す衛兵。
ちょっぴりズタボロな様は、実に哀れを誘いますね。
突然の不審者を囲むようにして、衛兵たちは一斉に襲い掛かりました。
しかし、不適に笑った桐壷はキラーンと瞳を輝かせ



「甘いワッ、魔法パーンチ!!!!」



雄雄しい叫びを轟かせつつ、右拳を振り回す桐壺。
そして呆気なく、再度宙を舞う衛兵の群れ。
瞬間的に、オー人事を思い浮かべた者は少なくありませんでした。



「ちょっと待て、それの何処が魔法なんだっ!
 破壊魔法とでもいいたいのかっ!?」

「違うっ、破壊魔法ではなイッ!
 魔法を使っての破壊
 即ち――――――――魔法破壊だっ!!!」



胸を張っての発言は、何も疚しい所は無いという証明。
バカには論理が通用しないという、いい例示ですね。
さて、いきなり始まったバトルで一番哀れなのは薫でしょう。
何せ、手を伸ばした形のままで放っとかれたのですから。



「えーと、この手はどうしたら・・・・・・・・・」



あまりの放置っぷりに、怒りすら湧いて来ず。
わきわき、と指を動かすことしか出来ません。
そんな彼女の前に、すっと現れた若者が。



「・・・・・・・・・・何やってるかな、お前等は」



疲れた顔をした保護者さんが、其処に立っておりました。
それを遠目にしていた葵や紫穂も、驚きを顔に浮べております。
ぱちくり、と目を瞬かせた薫は自分の手を見詰めた後
もう一度、保護者さんへと視線を向けて



「・・・・・・・踊る?」

「踊らん」



即答でした。
周囲で深まりつつある惨状を見回した後
保護者さんである皆本は溜息を一つ漏らし



「とりあえず、話は帰ってからにするか」



その言葉に薫ばかりではなく、葵と紫穂も頷きました。










「で、何で僕に黙って舞踏会に来たりしたんだ?
 たしか、結婚出来る年齢に達してないと参加不可の筈だろう?」



どうにも舞踏会は武闘会に変じたと判断し
家に戻った後、皆で家族会議中。



「え、それホンマ?
 薫、王子様から招待状貰たて言うてたやん」

「うん、それは嘘じゃねーぜ。
 皆には内緒だよ、って王子様は言ってたけど」

「いや、もういいそれは解った」



あんのロリコンが、とは食い縛った歯から漏れた言葉です。
どうやら王子の性癖は羞恥の、いや周知の事実のようで。
続けて、葵が口を開きました。優等生の面目躍如です。



「だって・・・・・・・お金は必要やろ。
 いっつも、ウチら壊してばっか、迷惑かけてばっかで
 せやから、少しぐらい家計に貢献したかったんよ」

「だから、王子と結婚って?」



コクリ、と素直に頷く三人。
そんな単純極まる思考に、皆本は呆れを隠せません。
同時に自らの力不足を反省し、もっと頑張らなきゃなぁ、と思いつつ



「そんな心配なんかしなくてもいいんだよ。
 お前等が元気に育ってくれる事
 お前等が幸せになってくれる事
 それが、僕にとっても幸せなんだから」



時には泣きたくなるけどな、という続きは喉の奥で。
皆本は大人です。嬉しそうな彼女等に水を指すわけにはいきません。



「だいたい、お金のためだけに結婚するなんて勿体無いだろ。
 お前等も何時か、本当に好きな人が出来るかもしれないんだしさ」

「あ、それは大丈夫よ。
 だってすぐに離婚するつもりだったし」

「・・・・・・・・・・・・・・は?」



思わぬ返答に大口を空ける皆本。
しかし、子供達にとっては今更言うまでも無い事だったのか



「そーだよな。
 王子様に好かれてるのは嬉しいけど、そんだけだし。
 とりあえず今必要なのは金なんだからさー」

「金さえ貰たら、後は用済みやもんな。
 慰謝料もがっぽがっぽ取ったったら、濡れ手に泡やで。
 それに、権力なんか持っててもしゃーないし」



悪意は無いけど善意も無い会話に、皆本は顔を蒼褪めさせました。
将来を思うと実に空恐ろしい光景です。女は恐い。
何はともあれ、これにて一件落着。万事解決です。
さぁそれじゃ寝るか、と皆本が立ち上がろうとした所
くい、と服の裾を引っぱられる感触が。
目を向けると、何かを言いたそうにしている葵が其処に。



「えっと・・・・・その、な
 なんちゅーか・・・・・・・・・・」



そしてようやく口に出来た言葉は



「ゴメン」

「いや、もう謝らなくてもいいさ。
 君らも反省してるんならそれで・・・・・」

「いや、それやなくて」



ぱたぱた、と顔の前で手を振る葵。
瞬時に、皆本の中で嫌な予感が湧き上がりました。
こういう予感に限ってよく当たるのは神様に嫌われてるせいでしょうか。
それはともかく、くいくい、と引っ張られる裾に付いて行き
暫く歩いて到着した場所は、葵の部屋の前。
そして、葵自身が扉を開けると其処には



「げ」



城の装飾品が、これでもか、と山積みになっておりました。
皆本の後ろで、あははー、と葵は誤魔化し笑いを浮べつつ



「いやー、城におったら我慢出来んかってな。
 ついつい、うちに向けて飛ばしてしもたんよ。
 多分気付かれてないとは思うんやけど
 途中で舞踏会抜け出した事調べられたらマズイかなーって」



そんな葵の言葉に、皆本は返す言葉を持ちません。
城のものを、しかも高そうな物を中心に持ち出したと知られた日には
彼に明日の朝日は昇らないこと請け合いです。物理的な首切りです。
へたり込んだ皆本の肩に、付いて来ていた紫穂は優しく手を乗せて



「大丈夫よ、沢山ネタは拾ってきてるから。
 脅すだけでも一生暮らしていけるんじゃないかしら」

「おう、万が一武力行使なんぞしてきた日にゃ
 あたしが蹴散らしてやるからな!」

「いやー、頼もしいなぁ二人とも。
 こりゃウチも頑張らんと。
 まずはコイツら、換金できるトコを探そか」



ヤル気に満ちた三人娘を虚ろな瞳で見やりつつ
国の為にも夜逃げするべきだろーな、と
涙に濡れながら、皆本は覚悟を決めておりました。

そうして、次の日を待たずして皆本たちは国を後にしたのです。
渋る子供たちを説き伏せつつ旅に出る彼には、愁いを帯びた風が吹いておりました。










しかし、実際には旅に出る必要など無かったのです。
その理由は、以下のような顛末で。



一通りのバトルを終らせ、桐壺を引き下がらせた後
子供達が帰ってしまった事に気付き、王子様は肩を落としました。
しかし、廃墟と化した場に落ちている贈り物らしき袋に気付いたのです。
接触感応で送り主に気付いた王子様は、たちまち喜色満面。
そして次の日、国民に向けてお触れを出したのです。
袋から取り出したそれを高々と掲げ上げつつ



「この下着が似合うものを僕は妻とする!」



その発言をかました日、クーデターが勃発しました。
それでも王子は男らしく下着を握り締めて放さなかったとの事です。
そういう訳で、葵がパクった物への追求は無かったのですが
それと知った時、既に皆本は国を出た後でした。さすがは不幸の代名詞。



「ナオミーッ!!!
 王子に習って、私も君へと下着のプレゼントをーーーーーーーっ!!!!」

「死ねや変態中年がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」



クーデターを利用して脱獄した大臣による
上記のような一幕もあったのですが
まぁ、しつこく忘れましょう。










旅に出てからも、様々なトラブルが一同に襲い掛かりました。



薫の姉と母を自称する女性達との一悶着。

葵の弟と名乗る少年との一騎打ち。

紫穂の戸籍上の父によって掛けられた指名手配。

果ては、保護者と血が繋がってないと判明した事での

三人全員の暴走による皆本貞操危機一発。



以上、もろもろの事件は御座いますが

それらはまた別の物語。

此度の話は、これにて幕とさせて頂きます。





なにはともあれ、めでたしめでたし          了


――――――――――――――――――――










「・・・・・・・・・・・・」

「くー」「かー」「すぴー」



物語の全てを読み終えて、なんともいえない表情で固まっている皆本。
そんな彼の傍では、三人仲良く一つのベッドの中
ただただ安らかな顔をしたチルドレンが、静かな寝息を立てていた。
そんな彼女等の寝顔を、皆本は引き攣った顔で眺めながら
この世界が御伽噺のように行かない事を心から願っていた。