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じゃんけん

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子供の面倒を見るという点において、皆本とう男は
そこ等の主婦と井戸端会議が出来るくらいの経験値を積んでいた。
そんな彼は無自覚な、BABELの誇るツンデレ的存在である。









「みーなもーとさーん。あーそびーましょー」

「・・・・・・・・・・・それは何の冗談だ、紫穂?」 

「いや、冗談とかじゃなくて。
 薫ちゃんも葵ちゃんも、家族と出かけちゃって暇なの。
 一過団欒のお邪魔をしたくないし」



そう紫穂に持ちかけられた時には、余程暇なんだろうと思ったわけで。
今は忙しくも無かったので、まぁ付き合ってやるか、と皆本は考え
そして・・・・・・・・その決断を、彼は現在心から後悔していた。










「・・・・・・・あのさぁ」

「じゃーんけーん」



ほい、との呼び声に出された手は二つ。
皆本はチョキで、紫穂はグー。
にこにこと笑う少女に向けて、皆本は疲れきった微笑みを返すばかり。



「流石に、じゃんけんだけって飽きてこないか」

「ん、全然。
 それが何であれ、勝つのは楽しいもの。
 さぁ、次いきましょ。じゃーんけーん」



ほい、と皆本が出した手はパーで紫穂はチョキ。
これで二十連敗の大台突入である
もはや笑い声さえ乾ききったものしか出ない。



「はぁ・・・・・・・今更なんだけど。
 君とじゃんけん勝負ってのが間違えてるよなぁ」



いや、本当に今更ではあるのだが。
彼女があまり嬉しそうな顔をしているので言い出し難かったのだ。
皆本の膝に乗りかかった紫穂は、心から楽しそうに微笑みながら



「うーん、じゃぁコレで最後ね。
 ラストって事で罰ゲーム付き。
 負けた方が勝った方の言う事を何でも聞くの」

「ちょっと待ていっ!」

「またな―い。ほら、じゃーんけーん・・・・・・」



何度も繰り返したその言葉につられ、反射的に手を出した。
皆本が咄嗟に出したのはパー。
そして紫穂が出しているのは
見紛う事無く―――――――――チョキだった。



「・・・・・・・・って、オイ!
 普通、ここは負けてくれる場面じゃないのかっ!!?」

「んー、最初はそのつもりだったんだけどね」



紫穂はとても可愛らしく唇に指を当て
最上級の微笑みを浮べながら










「皆本さんがそういう風に考えてたみたいだから、何だか癪に障ったの♪」










――――――――悪魔だコイツ。

輝くような笑みを見詰めながら、皆本は心より女は魔物という言葉を噛み締めた。
照れくさそうなその表情からは、可愛らしさより恐ろしさを感じてしまう。
そんな彼の視線に答えるようにして、紫穂は口を開いた。



「それじゃ、何を聞いてもらおうかしら。
 やっぱりここは、給料三か月分の指輪とか?」

「・・・・・・・・紫穂。
 そろそろ、いくら僕でも怒るぞ?」



こめかみが引き攣ってるような感覚を感じつつ。
笑みが強張っている事を自覚しながら、それを止める気にもなれない。
しかし、紫穂が浮べるのは、見た目だけなら邪気の無い微笑み。
こうして毒気を抜かれるのは毎度の事だが、今は彼女が此方に触れている。
つまり、こんな心情を読まれてる可能性もあるわけで
そう考えてみると、情けなさもひとしおだった。



「それなら・・・・・・・・・」



そう呟いて、紫穂は浮べた笑みの形を変える。
唇を己の舌で濡らしながら、見上げてくる瞳は微かに潤んだように見えた。
体を皆本の方へと向け、足を開いてその腰に圧し掛かるようにして。
そっと、右の手の平を彼の胸に押し付ける。
聞かれてしまっただろうか。一つ、大きく高鳴った鼓動を。








「おはようのキスとか、お願いしよう・・・・・・かな?」







顔を近づけて紡がれた声は、まるで別の誰かのものに聞こえ。
瞬間的に、忘我の縁に立たされた皆本は
しかし、すぐ身を離した紫穂がいつもの彼女である事に安堵の息を吐く。
くすくす、と子供らしく彼女は笑いながら



「・・・・・・・ドキドキした?」

「し、してないっ! してないぞっ!!!
 ああもう遊びはここまで! 僕は仕事に戻らなきゃ!」



紫穂を膝から下ろし、皆本は慌てて立ち上がる。
実際の所はまだ時間はあったのだが、彼女と一緒に居る気恥ずかしさに耐え切れなくなって。
そんな彼を眺めている紫穂の笑顔は、やはり何処までも優しかった。



「いってらっしゃーい♪」

「・・・・・・・・・行ってきます」



無用な敗北感を感じながら、皆本は其処を後にした。
嗚呼、今日は仕事にせいが出せそうだな今畜生。










―――――――――次の日の朝



机に突っ伏すようにして、皆本は良く寝ていた。
昨日、何かから逃げるようにして仕事に打ち込んでいたため、余程疲れたのだろう。
もう昼に近いというのに起きる様子はなく、規則正しい寝息が聞えている。
そんな彼へと近付いて行くのは一つの影。
その影は、彼の傍に寄って聞き取れないくらいの小声で呟いた。



「・・・・・・・・どっちがどっちにするかは、言ってないよね」



皆本の顔を覗き込んだ少女は、そう言い訳のように口にして。
これはゲームの延長上。そんな思いで緊張を誤魔化しながら。
すぅはぁ、と胸に手を当てて深呼吸してから、ゆっくりと顔を近づけた。
『罰ゲーム』まであと5センチ。








おまけの後日談



「ぐぉぉぉぉっ、また負けたーっ!!!」

「いや、お前等・・・・・・・・・・
 もう、じゃんけんで遊ぶの止めにしないか?」

「ヤダッ! 勝つまでやるっ!!!
 そう皆本を一日奴隷にするまではっ!!!」

「ちょっと待てコラ、何だそのルール」

「ええいこーなったら仕方ねぇっ!
 まずわ、あたしが奴隷になってやらぁっ!!!」

「謹んで御免被るっ!!!」



先日の騒ぎは、残り二人にあっさりとばれ
その日以来、彼らの間ではじゃんけんがプチブームと化していた。
無論のこと、罰ゲームまで含めて。
本日の罰ゲームを行ったのは葵。
現在は布団に入って、真っ赤な顔で二度寝中。
薫はなにやら趣旨が変わっているようで
他の二人と異なり、本気で勝ちを狙いに言っている。
問題としては、彼女が一番じゃんけんが弱いという事。
言い争いを続ける二人を眺め、紫穂は人知れず溜息を吐いた。



「薫ちゃんて、出す前に決まってるのよね。手の形」