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ノンブレーキ

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チルドレンの一人である、野上葵の実家帰省。
小学校への編入が決まった後、彼女等は皆本のうちに住み始めた。
その時から数えて、これが初の帰省となる。
帰省それ自体は、別に問題があるわけではない。
かつて事業の失敗などで、少々問題が生じかけた事実はあるものの
現在の野上家は、彼女も含めて一般の円満なご家庭と言える。
だからこそ、エスパーという点以外は少女に過ぎない葵が
家族に甘えるのは悪くない、いや寧ろいい事だ、と皆本は思う。

土産をねだる薫や紫穂と共に、BABELを発つ葵を笑顔で見送ってやった。
見送られる側の彼女は、暫しの別れが少しだけ寂しそうでもあり
同時に、家族と会える事を楽しみにしているようでもあった。
なお、ちゃんと最低限の護衛は付けている。
本心では家族水入らずとさせてやりたいのだが
テロ組織の存在を思うと、そういうわけにもいかない。
無論、葵には皆本自身の口から伝えてはいる。
しかし、それでも彼女が微笑んでくれていたのを思うと
同様に、皆本の頬も綻ぶのだった。
ああ、自分の選択は間違いではなかったんだな、と。



・・・・・・・・・よって、彼が陥っている現状は誤算もいい所なわけで。









「なぁ、皆本ー。もういい加減諦めねーか。
 口はそう言ってても体は正直だぜ。ホントかどうかは知らんけど」

「大丈夫よ、薫ちゃん。
 今、確かめればいいだけだもの」

(何でこうなるんだチクショーーーーーーーーッ!!!!!)



草木も眠る丑三つ時。
本日の仕事を終え、さぁ寝ようとした皆本に襲い掛かってきたのは
瞳に嫌な光を燈した、夜更かし中の薫と紫穂の二人だった。
彼の動きを止めるかのように、ベッドの上で圧し掛かってきている。
偶然見た深夜ドラマに彼女等が触発されたなどとは、皆本が知る由もない。

一番常識人に近い葵が居ないという事は、即ちストッパーの不在。
葵の帰省にばかり気を取られ、それをすっかり失念していた事。
最近、葵にかかりきりで二人を少しばかりないがしろにしていた事
そんな諸々に今更ながら気付きつつ、皆本は過去の自分を呪うしか出来なかった。













「お前等、いい加減にしろぉぉぉぉぉっ!」

「へっへっへ、口ではそんな事を言いつつも以下省略。
 ほーら、恥かしがってねーで、おいちゃんに見せてみそ」

「何処を? っていうか薫ちゃん、色々と親父過ぎ。
 でも、皆本さんもちょっと意気地無しかしら?
 それとも、無いのは甲斐性?」

「・・・・・・・・・・・・」



身動き取れない状態で、小学生二人に甚振られる。
そんな状況の皆本には、ここ数分が数時間にも感じられていた。
べたべたと言葉含みで迫られるうち、色々と限界に達したか



「・・・・・・・・・だーもぅ、煮るなり焼くなり好きにしろ!!!」



心にも無い事を叫んで動きを止める皆本。
それで落ち着いてくれる事を期待していたのだろう。
しかし、薫はその言葉に虚を疲れたようにして動きを止め 



「ほー・・・・・・好きにして、いいんだな?」



オヤジ笑いは潜められ、その視線はどこか真剣に。
頬を赤らめた様子を見て、皆本は発言の誤りに気が付いた。



「ちょっと待―――――!」



言い終えるより先にベッドへと投げ出され、瞬時に硬直する皆本の体。
何時の間にか寄って来ていた紫穂が、その胸に手を当てながら



「そんなに恐がらないで・・・・・・優しくするから」

(何をだっ!!?)



心の叫びは届かない。
いや、届いてるのかもしれないがスルー能力は万全だ。



「ね、皆本さん・・・・・・」



片手は皆本の胸に当てたままもう一つの手で胸元のリボンを外す。
ピンで留められていたそれはすぐに解け
外されたボタンの奥、素肌の首筋と胸元が覗いていた。
皆本の胸を直に撫でながら、紫穂は微かに眉根を寄せる。



「・・・・・・残念。興奮よりも忌避感の方が強いのね」



当たり前だ、と皆本は叫びたかったが、PKは体中に及び声も出せなくなっていた。
ぷるぷる、と震える様は、まるでこれからの行いを怖がる純情少年の如し。



「でも」



そして、視線を外す事も出来やしなかった。
そんな彼の目の前で、ゆっくりと紫穂は片手で服を脱ぎ始めた。



「よかった・・・・・・・これでも嫌われたりしないって、解ったから」



胸に当てていた手が滑るようにしてYシャツの上を撫で上げ、そのまま頬を擦る。
皆本の上に圧し掛かるように、いや真実圧し掛かりながら、彼の瞳を覗き込み紫穂は微笑みを浮べた。
その怯えた様が可愛らしく、けれど手から伝わる真摯な思いが、何処までも愛おしくて。
下着を見られてしまっている事を、サイコメトリによって彼女は既には気が付いていた。
それを紫穂が知っている事を皆本は気付いており
――――――更に、紫穂はそんな皆本による自責の念まで読み取っていた。
一つに成るというのは、果たしてこんな感覚だろうか、と。
そんな思いに引き寄せられるようにして、紫穂の唇は皆本のそれへと近付いて―――――――










「何してんだゴルァッ!!!!!」










――――――そして、触れ合う事無く紫穂の体は宙を待った。
目を丸くした皆本が見たのは、眼光鋭く此方を睨み据える顔を真っ赤にした薫。
ばふっ、と皆本の横に落下した紫穂は不満そうに



「ちょっと、何で邪魔するの薫ちゃん」

「何でもクソもあるかっ!」



その様子を見て皆本は思う。
ああ、ゴメンよ薫。実は人並み程度の常識ぐらいは弁えていたんだね。
しかし、言うまでも無く彼のそんな思いは幻想に過ぎなく



「皆本の初めてはなぁ―――――――まず、あたしが貰うんだっ!」



その宣言を聞いて、皆本はあー解ってたよ今畜生とばかりに涙を零し始めた。
神は何処だ。少なくとも此処には居ない。



「薫ちゃんでも其処は譲れないわ。私だって欲しいもの」

「そりゃ、こっちの台詞!
 そんだけ皆本に迫ったんなら次あたしの番だろ!」

「じゃぁ、皆本さんがどっちが好きかって事で決めましょ?
 私が心を読むから」

「嘘つき放題じゃねーかっ!」



喧喧轟々と言い合う二人をジト目で眺めながら、皆本は切に願った。
もうこのまんま勝者無しのドローゲームという事で終ってくれないだろーか、と。



「・・・・・・仕方ないわね。じゃ、一緒でもいい?」

「くっ、それしかねーか。
 初めてで3Pたぁ、男冥利に尽きるなぁ皆本!」



はい、そう上手くはいきませんね。
よーし、神様居るなら出て来い殴ってやる



「皆本・・・・・」

「皆本さん・・・・・・」 



二人の小型肉食獣が哀れな肉へと近付いて行く。
身動きの取れない肉は、視線でもって拒否を示すしかなかったが
そうすると二人の姿が否応無く目に入った。
勢いよく上着を脱ぎ捨て下着だけとなった薫に、リボンとボタンとを外しただけの紫穂。
お好きな方には溜まらんかもしれないが、皆本はそれ以上に危機感を感じていた
――――――――いかん、このままでは食われる、と。
相手に紫穂が居る以上、初めてなのが知られている事はもはや諦めた。ちょっぴり死にたくは在るが。
しかし、だからといって初体験が十歳児はマズイというか迷い無く犯罪。
つーか、具体的に死ぬ、殺される、局長に。
そこまで考えを至らせた皆本は渾身の力を持って口を開いた。



「お、お前等――――――――」



そして続けた言葉は・・・・・・・・ある意味特攻だった。







「――――――葵の事はどうするんだっ!?」







「「・・・・・・・・・・・・」」



言われた二人は困惑を露にする。
お互いの顔を見合いつつ



「いや、それは何つーか、ほら」

「えっと、早い者勝ち・・・・・とか」



その様子は此処には居ない葵に対する微かな、けれど確かな罪悪感を感じさせた。
実際、葵が居ないからこそ行動しているわけなのだが
だからといって、彼女を出し抜いている状態に気付いてないわけがない。
それを皆本は見逃さずに畳み掛ける。



「こんな事をしてしまったら、葵とは今までの関係でいられなくなるだろう。
 だから、今日のところは思い止まってくれ。
 僕は・・・・・・・何時までだってお前等を待ち続けるから」



視線を外さずに語りかける皆本。
その発言、下手しないでもプロポーズの言葉になっている事に気付いているやらいないやら。
真剣な彼の表情を見て、薫と紫穂は考えに浸る―――――――しばしの間をおいて



「・・・・・・・・・・・・仕方ねーな」

「そうね、葵ちゃんだけ仲間外れにしたら可哀相だもの」



二人は共に、頬をほんのりと赤らめつつ。
残念そうに呟かれたそれらを聞いて、皆本は小さな達成感を得た。
ウィナー皆本。頑張った感動した。おめでとうおめでとうおめで



「じゃー、今度葵が居る時に4Pだな」「頑張ろうね」



・・・・・・・・・気力の全てを使い果たした皆本は、もうベッドに倒れこむ事しか出来なかった。









さて、葵が無事帰ってきてから数日後。

夜―――――――皆本はベッドに寝転んでいた。
その左手には薫を、右手には紫穂を置いて
・・・・・・・・断っておくが、やましい事をしたわけではない。ただの添い寝だ。
パジャマ姿となった二人は、起きている時の悪魔振りをまるで感じさせない天使の微笑みでまどろんでいた。
天使で悪魔。そんなフレーズが皆本の脳裏に浮ぶ。



「まったく、お前等は・・・・・・・」



愚痴を漏らしながらも、顔に浮ぶのは笑顔。
懐かれてる事自体は単純に嬉しく感じる。
あとは、もう少しやり方を考えてくれるといいのだけれど。
そんな微妙に贅沢な思考をしている自分に向けて苦笑した所で


「んー・・・・・・・皆本はん?」


最後の一人、葵が枕と抱き締めてやって来た。
一人では眠れなかったのだろうか、あるいは薫や紫穂を探しに来たのだろうか。
・・・・・・二人も三人も同じ事か、と考えた皆本は



「眠れなかったのか?」

「うん・・・・・・そっち、いってもええ?」



舌足らずに答える彼女に向けて、おいで、とだけ軽く身を起して返す。
はにかみながら近付いて来る彼女を見ていると、此方も頬が微かに緩んだ。










―――――――そんな皆本の後ろでは。

先程まで確かに寝ていたはずの二人が身を起し

その瞳をキラリと光らせていた