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絶対可憐チルドレン

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必要なのは二人だけ
手は二つしかないから
もう一人と手は繋げない

自分を合わせて三人だけ
それで十分だから
それ以上は要らない

要らないと、思ってた










「皆本ー! これ見ろよ、切れ込み具合がすげーってか下着かコレ!?」

「あれれ、皆本はんどないしたんや? 目がやらしいでぇ」

「皆本さん・・・・・・・・・エッチ」

(こ、このクソガキどもはーーーーーーーーーーーっ!!!!!)



舞台は水着売り場の一画。
ビキニやセパレート、そして何故だかスクール水着。
トランクスやらビキニパンツなど、男性用水着は見られない。
そして、同様に男の姿もなく辺りを歩いているのは女性だけ。
そう、ここは女性専用の水着売り場。



「ママー、何あれー?」

「しっ、見ちゃいけません! 感染るわっ!」

(感染(うつ)るかぁっ!!!!!)



出演は少女三名に成人男子一名。
店内で唯一の男は、あたかも羊の群れに迷い込んだ狼のよう。
ただし、羊は狼よりも強いのだけれど。
周囲から注がれる鋭い視線が非常に痛い。
何でてめぇは此処に居る、と無言で語りかけている。
ああ、何てことだ。新発見だ。
人は解り合える。言葉が通じなくても。
超能力だって必要ないさ。
そう、こんなに簡単に―――――――――



「ほらほら、夢見がちなガキじゃないんだから
 ネバーランドに旅立ってないで、コッチ見ろってば」



虚ろな目にティンカーベルを映していた皆本の焦点が
何処か不機嫌さを交えた薫の声で、現世に引き戻された。
むぅ、と睨みつける彼女の後ろでは
葵と紫穂がひそひそと会話をしている。
時折、皆本へとジト目混じりの視線を向けながら。



「皆本はんって、実はそっちのケが・・・・・・・・」

「水着に囲まれてトリップなんて・・・・・・・・・メモメモ」

「ちっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!!!!!」



人としての尊厳を守るために、魂込めての絶叫を上げる皆本。
日々の生活を三人のチビ怪獣に侵食される彼にとって
ロリータ趣味ではない、という一線はもはや最終防衛ラインに等しい。
ただし、その廻りへの配慮を怠った叫びのせいで、
彼を見る視線の温度が、更に冷ややかな物となってしまったのだが。
それに気付いた皆本は頬を赤らめ、憮然とした顔付きで黙り込む。
全ての元凶たるお子様たちは、そんな彼の姿を楽しそうに見ているのだった。










「・・・・・・・・・・・つ、疲れた」



片腕で目を隠す格好になりながら、自室のソファーに寝転がる皆本。
たまの休日を、子供によって振り回された父親の如き様子である。
皆本は、まだまだ二十代前半という若さだが、
元気に満ち溢れた子供三人のお守りとなると、流石に体力が追いつかない。
そもそも研究職の身。他の成人男子と比べて、体力に自信があるわけでもない。
疲労困憊を体で表さんとしているかのように、ぐったりと身を横たえていた。
出来ることならば、そのままに寝てしまいたかったが
一日中外を歩いていたので、シャツがかなり汗を吸っている。
濡れたシャツのままに寝てしまっては風邪をひくやもしれないし、第一寝苦しい。



「風呂入って、寝よ」



よろりと、ゾンビの風体にて立ち上がり
のそのそと、風呂場に向けて歩き出す。
下着、バスタオルを用意して
緩慢な動作で服を脱ぎ去り、タオルを腰に巻きつけて


がらり










「「「いらっしゃーい♪」」」










ぱたり


うん、自分は何も見なかった。
いやー、いいお風呂だったなァ。
そう己を誤魔化しつつ、緩慢な動作で服を着込もうと



「皆本ー!
 何でいきなり逆走してんだよー」

「せや、いくら疲れとっても体くらいは流さな」

「・・・・・・・・・・不潔」



・・・・・・・できないよね、うん。わかっちゃいるんだが。
でも、想像の中でくらい幸せになりたいじゃないか、ねぇ?
天井を向こう、何かが零れたりしないように。
きっと心が汗をかいたのだろう、皆本の目元にキラリと光る雫が一粒。










「ふっふっふっふ、口では何だかんだ言いつつも体は正直だな」

「薫ちゃん、親父臭いにも程が」

「ある意味、似合っとるんが凄いわ」



本日わざわざ水着を買いに行ったにもかかわらず
結局、三人の身を包んでいるのはスクール水着だった。
水着に身を包んだ十歳の少女三人に、全身を余す所無く洗われる。
特異な趣味思考の持ち主であれば垂涎の極みであろうが
あいにく、当事者である皆本はごく一般の感性の持ち主だった。
端的に言えば、ぺたんこ寸胴体型に欲情などはしない。
疲れと呆れとを、溜息として吐き出した時、
剥き出しの背中を、親指と人差し指で思い切り抓られた。
触れる事で人の心を読み取る事の出来るサイコメトラー、紫穂である。
手加減が微塵も感じられないソレは、大げさでも何でもなく痛過ぎる。



「いだっ、いだだだだだだっ!!!」

「失礼ね。誰がぺたなの。
 そりゃ、あんまり無いけど・・・・・・・・・・」

「ほぉーぅ・・・・・・・・・・・どうやら、まーだ教育が足りないってか」



その言葉が終るか終わらないかで、皆本の体に異状が起きた。
宙に浮いたとか、弾き飛ばされたとか、動きを伴う変化ではない。
その真逆。指一本、己の意志で動かせなくなったのだ。
言うまでも無い事だが、彼は突発性全身麻痺など煩ってはいない。
ほぼ、というか間違いなく、薫のテレキネシスによるものである。
そして、当の彼女は



「な、何する気だ、薫っ!!!」

「ふっふっふっふっふ」

「うあ、あかんわそんな」

「ドキドキ」



激しく熱意の篭った三つの視線は一点に。
ただ一枚のタオルで隠された皆本の股間。
顔を赤くした葵は、首を捻ってそっぽを向きつつも
興味を惹かれる事を隠し切れずに、ちらちらと横目で確認している。
紫穂は恥らっているのか、両の手で顔を隠しているが
大きく開けられた指は、視界を妨げるのに何の役割も果してはいない。
最もあからさまなのは、やはりというか薫だった。
目は血走り、背には龍を背負い、今にも襲い掛からんと。



「やめんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」










「・・・・・・・・・・なー、機嫌直せよー。
 最後まではしなかったじゃんかー」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



むっつりと不機嫌さを隠そうともせずに、
皆本はパソコンと睨みあっていた。
脇にいる葵と紫穂も、罰が悪そうにしている。
実行犯は薫とはいえ、止めなかった点で彼女等も同罪なのだから。
たとえ、結局未遂に終ったのだとしても。
長い長い溜息を、聞こえよがしに吐き、



「・・・・・・・・・まぁ、許そう。
 タオルを剥ぎ取りはしなかったことに免じて」

「そっか・・・・・・・うん、ありがと。ゴメンな」



ばつの悪そうな顔を苦笑に換えて
少し恥かしそうに謝罪と感謝の言葉を。
謝罪は、やり過ぎてしまった事へ。
感謝は、それでも許してくれた事へ。



「じゃ、一緒に寝よっか♪」

「大却下」



寸毫ほども間を空けぬ皆本の答えに、
納得いかぬと反論するのは勿論、薫。



「なんでさー!
 一部屋で一緒に暮らす男女!
 生活を共にしてんなら、寝る場所だって同じでいい筈だろー!
 布団は一つ! 枕は四つ!」



しっかりと葵と紫穂も準備は万端。
パジャマ姿で枕を抱き締め、ゲットレディ。



「それとも、あたしらに何かする気なのか!
 具体的には肉表記必須描写エロい事!!!」

「するわけがないだろう!」

「じゃ、いーじゃん! 決まりー!」



有無を言わさず、ベッドに潜り込む薫。
それに、ちゃっかりと追従する紫穂。
既にテレポートでスタンバっていた葵。



「「「さ、寝よ♪」」」



悪戯っぽく。照れた風に。無邪気な面持ちで。
三者三様の顔付き、言葉遣いによって皆本へと手を伸ばす。
小悪魔、いや、ちっちゃな大悪魔のお誘いに
蜘蛛の巣に絡め取られた蝶の気持ちを、皆本は実感として知るのだった。










「・・・・・・・・・なー、皆本。
 もう寝ちゃった?」

「う、ん・・・・・・起きてるよー」



部屋に作られた闇の中。
小さな声で交わされる会話。



「そっか、あの、さ。
 ・・・・・・・・・あたし、駄目だよね。
 力を使ってばっかで皆本に迷惑かけて。
 戦う力が在るって言ったのに、大事な物は守れなくて
 それに、お前を―――――――――――」



守れなかった。
離れていたからとかは関係無く、
戦える力が在ると豪語しておきながら
自分は、傍に居てくれた一人の男さえ守れなかった。
でも・・・・・・・・



「・・・・・・・・・・・ああ。気にしてないさ」

「・・・・・・・・・え」

「だから気にしてないってば。
 僕に力を使う事を言ってるんだろ?
 そりゃ、ちょっと手加減して欲しいと思ったりもするけど。
 薫の機嫌を悪くしてるのは、僕に非が在ったりもするんだから。
 まぁ、お互い様って事でいいんじゃないかな。
 もし薫が気にしてるなら、それは変えればいい事だろ?
 だから、これからもよろしく」

「あ・・・・・・・・・・・」

「へんじはー」

「う、うん。『これから』も、その・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・すー」

「な、何だよ。ホントに寝ちゃったのか?」



返事はない。どうやら夢に落ちたようだ。
・・・・・・少し傍によって見る。
近付いてもリアクションが無い。
どうやら、完全に眠っているようだ。
腕に触ってみる。反応無し。
胸を撫でてみる。やっぱり無し。
顔を覗いてみる。目は閉じていた。
唇を―――――――――――――



「「それはNG」」

「おわっ!!!」



ぐいっ、と襟首を後に引っ張られる。
振り向くと、そこには半目の葵と紫穂が居た。
俗に言う、ジト目である。



「ふ、二人とも! 起きてたのか!?」

「うふふー、うちらも同じベッドなんやで?
 あんな会話されちゃぁ、熱ぅて寝てられんわ」

「右に同じ。
 それに薫ちゃん、抜け駆けはズルイわ」



からかい口調の詰問。でも目が笑ってない。
口元は笑みの形に歪んでいる分、恐ろしさを増している。



「抜け駆けって・・・・・・・別にそういうんじゃあるけど」

「うんうん、正直なのは先生嬉しいで。
 だから、今度からは♪」

「私たちも、ちゃんと混ぜてね♪」

「オーケィ兄弟」



交わされるサムズアップは了承の印。
この時、彼女等は真なる意味で一つになった。
その瞬間、皆本が魘されていたのは
迫り来る未来を感知してしまったからなのか。











皆本は夢を見た。
端的に言えば、それは悪夢だったように思う。
三匹の猫やら、三人のモンスターやらが現れて
自分には逃げ場も無く、逃げた所で捕まえられ
襲い掛かられて食べられてしまう夢。
普通、コレは悪夢だろう。
どう考えてもいい所など一つも無い。

でも、起きた皆本は寝ぼけ眼で首を傾げた。
何故だか、あまり悪い夢では無かった気がしていたから。
それが正夢と知るのは、そう遠い日の事ではない。
それを正夢とするのは、彼の傍で眠っている少女達。
彼に寄り添ったまま、まだ起きる様子の無い彼女等は
何処までも安心しきった顔で、微笑みを浮かべていた。








この手は両方とも塞がって
視界は内側に向けられて
作られたのは、三人だけの小さな世界

でも、それを外から抱き締められた
手は繋げたままで離さずに
目は反らしたままで戻さずに
それでも感じられるのは
抱き締められる暖かさ
胸の奥から生れる温もり

全部与えてくれたから
全部教えてくれたから

だから私たちも貴方に返す
自分に出来る精一杯
ほんのちょっぴり背伸びして
それよりたくさん頑張って
伝えたいのはこの温もり



貴方は、感じてくれますか?