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猫三匹姦しい?

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皆本の部屋には猫がいる
三者三様の猫がいる

「にゃぁ」
「にぃ」
「みぃ」

その猫たちは
気まぐれで、意地っ張りで、我がままで
そして、とっても寂しがりや
一人で相手をする皆本は、毎日がとっても大変









皆本はこめかみに指を当てながら
脳裏に渦巻く疑問を、どうにか言葉に変えた。
口元はやや引き釣り気味だったが。



「・・・・・・・・・・で、何のつもりだ?」

「ふっ、皆まで言うな。
 もはや天使とも見紛うばかりのあたしらを前にして
 今にも飛び掛りたい、ってな衝動を押さえつけている事は解っているさ」

「人の全人格を否定するような発言はやめんかっ!!!!!」



叫びながら、皆本は俯いていた顔を上げ
ベッドの上に座り込んだ、問題の三人娘に視線を向けた。
ちなみに、そのベッドは皆本がいつも寝ているモノであり
彼女等のモノではなく、また普段から同衾しているわけでは断じてない。
腕組みしつつ、胡座をかいている薫。
曲げた膝の上に顎を乗せている葵。
所謂女の子座りで、おすまし顔の紫穂。
それぞれに異なる可愛さを持つ少女等の間で共通しているのは
頬に浮んでいる、何処か悪戯めいた微笑だった。
そして、もう一つ・・・・・・・・・・



「安心しろって。此処に居るのはあたしらだけ。
 バベルの中とは違って、監視の目とかも一切無い。
 つまりは治外法権! お触りだってオッケーだ!
 大いに間違えたまえって事で。さ、かもーん」

「ま、皆本はんたらやらしっ、そんな目ぇでうちらを?
 皆本はんとうちらの仲やし、ちょっとくらいならええで♪」

「・・・・・・・・・・ロリコン?」

「違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうっ!!!!!」



薫、葵、紫穂の三名が彼の部屋に泊まるのは、何も珍しい事ではない。
成人男子の部屋に異性が、しかも十歳児が三人も泊り込むのは
傍から見れば、色々と下らぬ憶測を呼び込む事は想像に難くない。
だが彼女等と彼に限っては、そのような噂には結びつかず
それどころか、皆本の身を同情する者さえ現れる始末。
実際、一人でも大怪獣にも等しい子供が三人分。
付き合わされる皆本としては、正直たまったものではない。
かといって強く突き放す事も出来ない点、まだまだ甘いと言えようが。
しかしこの日の夜は、いつもとは少々毛色が違っていた。



「だからっ! なんなんだその格好はっ!!!」

「うん? ひょっとして嫌いなのか、猫」

「そーいう問題じゃないっ!!!」



そう、問題は彼女等の格好にある。
自分のベッドの上にいるくらいなら、まだいい。
からかわれるのにも慣れた。哀しい事ではあるが。
だが、そんな事とは一線を画している
その姿を、単純に一言で表すならば





―――――――――――ネコミミモード(シッポ付き





ネコミミシッポ付属パジャマに身を包んだ少女三名を前に
何処で売ってたんだンなモン、と問い質したい気持ちを
皆本は懸命に押さえつけまくっていた。
口をつむがれるならまだしも、喜々として説明などされては堪らない。
しかし、彼女等の方は言いたくてしょうがなかったのか



「ふふん、説明しようっ!!!」



得意そうに鼻を鳴らす、黒いネコミミシッポを装備した薫。
ぴこぴこと、ネコミミが動いているのは仕様だろうか。
はたまた彼女のテレキネシスによるものだろうか。
どっちであろうとも、眼前の現実が変わってくれないのが口惜しい。
苦しむ皆本を気にもせず、薫が勢いよく口を開いたが
それを遮るように、横から三毛猫風味の葵が口を出した。



「うちがネットで調べてなー。
 んで、今日は早よにお仕事終れたやろ?
 善は急げちう事で、今日のうちに買うてきてん」

「あ、コラ葵っ!
 あたしが言おうとしてたのにっ!」

「へへー、早いモン勝ちや」

「くっ、ナイムネに先を越されるなんてっ!」

「関係無いやろ今此処でそれはっ!!!」



きーきー、と服を引っ張り合う黒と三毛。
二人ともパジャマの為、お臍が見えるどころか下着までがちらりと覗く。
いきなり仲間割れを始めた少女を見て、先程から感じていた頭痛が増した。
何故、そういう格好が此処にあるのかではなく
何故、そういう格好を此処でしているのか、を聞きたいのだ。
このままなし崩しに終るのが一番平穏か、とも思っていた所、
ベッド前で立ち尽くす皆本に、白猫紫穂がつつつと近付き
ぴっ、と人差し指を一本立てて



「ちなみに発案者は薫ちゃんね。
 最近、皆本さんが元気なさそうだから
 ここは一つ、あたしらで景気つけてやろうって」

「あぁっ、紫穂までーーーーーーーーーーーっ!
 それは言うなって念押しといたろーーーーーっ!!!」



シッポを振りまくりながら、顔を真っ赤にして喚く薫。
ネコミミをそっぽに向けて、そ知らぬ顔の紫穂。
此処最近悩んでいた事を、彼女等に気付かれていた。
それは皆本にとって不覚であり、しかし同時に嬉しくもあった。










ノーマルとエスパーとの戦争。
予知によって見せられた、起こりうる未来。
それを知ってからずっと思い悩んでいたのは、確かに彼女等の知る通り。
その内容が内容だけに、軽軽しく打ち明けるわけにもいかない。
だからこそ、詳細を聞かずに気遣ってくれる気持ちはとてもありがたい。
手段は・・・・・・・・・・まぁ、ともかくとして。

先程までの得意げな顔はなりを潜め、代わりに不貞腐れた表情を浮かべている。
そんな薫を見ながら、皆本はベッドに腰を下ろし彼女を呼んだ。
『きゃ、ご指名?』、とか言ってる二人はとりあえず無視。
呼ばれた薫は、顔をぷいと他に向けたままで、
しかし、ずりずりとベッドの上を動いて彼の傍へと近付いて行く。
そんな彼女の様子に、暖かみのある微苦笑を浮かべ
手を伸ばして、ぽんぽん、とその頭を軽く叩いた。



「有難うな。ちょっと複雑だけど嬉しいよ。
 僕のためにやってくれたんだな」

「べ、別にあたしはだなぁ・・・・・・・・・・」



上目使いに此方を振り向き、何か言おうとしたのを、
更にぽんぽんと頭を撫でてやって止めてやる。
たまには天邪鬼を捨てて、素直になるもいいだろう。
目を細め、撫でられ続ける薫は憮然とした表情でありながら
その頬は緩んでしまうのを堪えていた。
そんな二人を見ながら、葵と紫穂は優しい笑みを浮かべていた。
心の奥では、少しばかりもやもやした感じがするのは仕方ないとして。
暖かな空気に終わりを告げたのは、紫穂による小さな欠伸。



「ん・・・・・・それじゃ、寝ましょ」

「せやな、夜更かしは美容の大敵や」

「オ、オイ!
 何で僕のベッドに潜り込んでるんだ!?
 君ら用のベッドは向こうの部屋に置いてあるだろう!!?」



しかも枕まで持参するという念の入りようだ。
だが、そんな皆本の驚きに対して
薫は不思議なものでも見るかのように



「今更何言ってんだよ。
 元気付けてやるって言ったろ♪」



その時、ニヤリと笑った彼女の目は本気(マジ)でした。
薫を筆頭とした、彼女等による行為。
その元自体に悪気は無い。だからこそ、たちが悪い。
猫の格好をするだけだと思っていた皆本は
こと此処に至って、ようやくその考えが温すぎた事に気がついた。



「僕はあっちのソファーでっ!!!」

「逃がさんっ! どりゃぁっ!!!」



ベッドから立ち上がり、部屋の外へ逃げようとした皆本だったが、
それよりいち早く、薫の念動力が彼の体を持ち上げ
宙でくるりと一回転させ、ベッドの上へと落とした。
ちょうど、彼女等によって囲まれる位置に。
そして、すぐさま彼ににじり寄る三匹の子猫たち。



「ほら薫、今のうちらは猫。
 猫は言葉を使わんのやで。
 という事で皆本はん、にぃ~~~~~」



葵は自分の頬を、皆本の胸に擦り付ける。
すりすりすりすり



「私も・・・・・・・・・みぃ」



紫穂も同様、しかし此方は皆本のお腹に。
すりすりすりすりすりすりすり



「にぃにぃにぃ♪」

「みぃみぃみぃ♪」

「あ、あのなぁ、お前等」



嫌いではない以上、懐かれているのは面映いながらも嬉しい。
だが、やはり恥かしいという気持ちも嘘ではないわけで。
逃げる事も出来ようが、ここまで嬉しそうな顔をされるとそれも難しい。
どうにかしてくれ、と期待を込めて薫に目を向けると
そこにいたのは、顔を真っ赤にして近付いてくる子猫が一人。
ブルータスお前もか、とツッコミを入れるより早く



「・・・・・・・・・・にゃ、にゃぁ」

ぺろ

「!!!!!!」



鳴き声と共に伸ばされた舌先は、皆本の唇をちろりと舐めた。
吐息がかかる距離で見つめてくる幼い視線。
泣きそうでもあり、誘うようでもあり。
口から零れるのは、ケモノの鳴き声。



「にぃ(くっ、その手があったか。うちも負けてられへんな)」

「みぃ(・・・・・・・ズルイ。私も負けないから)」



鳴き声に重ねて、何故か聞こえる心の声。
きっと幻聴だ、そうに違いない。だから醒めろ夢。
現実逃避を始めた皆本に、更に身を摺り寄せる子猫たち。
日溜りの中にいるように、安心しきった顔をして
でも、その頬をリンゴのように赤らめて
いつの間にやら、灯りの落とされた部屋の中で
にゃぁ、にぃ、みぃ、と
ねだるような甘えるような、三つの鳴き声が響いていた。










翌朝、バベルにて




パソコンを前に、一心不乱にキーボードを叩く男が一人。
ガガガガガガガガガッ!!!



「ゆ、指が残像を生み出してる!?
 流石はアノ三人の面倒を見ているる男、半端じゃないな」

「ああ、まるで何かに取り憑かれているかのようだ」

「どっか追い詰められてるよーにも見えるんだけど」

「・・・・・・・・・・・・夢だ。
 夢だ、夢だ、アレは夢だったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「「「おおっ、更に速くっ!!?」」」



皆本はいつも通り、現実逃避仕事に忙しそうにしていた。
目尻にキラリと光るのは、きっと心の汗に違いない。










さて、それと同時刻



「やっぱ、次はにくきぅか?
 色を変えて攻めるってのも?
 ヒゲはマニアック過ぎ?
 ・・・・・・・・・・そ、そうか! 
 着させられるのがポイントなんだ!
 コレが『俺色に染める』ってやつなんだな!
 ふっふっふ、待ってろよ皆本ーーーーーーーーっ!!!」



良い子は読んじゃいけないご本を、目を血走らせて読み進めている薫。
そこに掲載された写真には、裸の女性が目一杯映っており
その女性は服を着ていないのに、お尻ではシッポが揺れていた。
実に不思議なこともあるものである。










そして、葵は局長と話をしていた。
眼鏡をキラリと光らせながら、熱心にメモを取っている。



「ふぅん、猫の舌ってざらざらしとるんや」

「指を舐めてくる様子など、もう可愛いの一言だネ。
 舌を伸ばしてミルクを舐めるのも実に可愛らしいのだヨ」

「ミルクかー、そういうんもアリやな。
 ありがと。今度、皆本はんと試してみるわ」

「ふむ、彼は猫を飼うのかネ?
 家族が増えるのはいい事だと思うヨ」



にこにこと、好々爺を思わせる表情の桐壺局長。
彼が真実を知った時、果たして皆本は生きていられるのだろうか。










廊下では、紫穂と朧が立ち話をしている。
窓から見られる景色の中、野良猫が数匹寄り集まっていた。


「あ、猫・・・・・・・・・・」

「あら、ホント。
 日向ぼっこでもしてるのかしら?」

「・・・・・・・・・・猫って、裸だから。
 それで、寒いからくっついてるのかな?」

「ふふっ、そうかもしれないわね」

「うん、寒いと仕方ないよ、ね」



などと、頬を染めて口にしていたりする。
さて、空を見上げた瞳は何を見つめているのやら。










皆本の部屋には猫がいる
三者三様の猫がいる

「にゃぁ♪」
「にぃ♪」
「みぃ♪」

その猫たちは
可愛らしくて、柔らかくて、温かくて
そして、とっても甘えん坊
一人で相手をする皆本は、毎晩とっても大変です