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きつねのおやど

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この子どこの子、キツネの子。
この子どんな子、キツネな子。
あなたのお名前なんてーの?


「私はタマモ。タマモでいいわ」


なるほどタマモん。


「ちょっと待て」









キツネはちょっぴりワケアリで、人様の家に間借り中。
けれども、そこは住んだが都、何時の間にやら馴染んでる。
キツネと一緒に暮らすのは、事務所の中のとぼけた面々。


怒ると恐い、所長の美神。
怒らなくても時には恐い、金が絡めば修羅と化す。
ああはなりたくないもんだ。

事務所の良心、氷室キヌ。
優しく温和な大和の撫子。
地味臭いのが、たまに傷

犬と横島、どーでもいい。
キツネはあっさり切り捨てた。
それでいーのか?


「いいのよ」


いいんだ





この子どんな子、キツネな子。
キツネはとっても天邪鬼。
本音を口に出したりしない。
素直な言葉で褒めたりしない。










ある日、キツネが体調崩した。
ベッドの上でハァハァゼィゼィ。
見ているだけでもこちらが辛い。

そこで立ったが犬一人。
一人じゃないけど犬一人。
むしろ犬でもないけれど。


大きなお世話、とキツネが言った。
知ったことか、と犬が返した。
背を向け合って、二人の距離は離れてく。

傍に居てよ、とキツネは思った。
すぐに帰る、と犬は思った。
口にしたりは出来ないけれど、深い想いは互いに同じ



一人残ったおキヌちゃん。
キツネを看ている優しい瞳。
元気付けるの、優しい声で。
キツネはちょっぴり泣きたくなった。
泣いたりなんてしないけど。

どんなにどれだけ看病しても、どんどん熱は上がってく。
ついには人にも成れなくなって、毛物に戻った小さなキツネ。
ふと思い出す神父の頭。ずるりと抜ける自分の毛。
もうすぐアタシは死んじゃうのかな、弱気な自分が顔を出す。

どうせ死んでしまうなら、せめて一言伝えなきゃ。
体を起したキツネは鳴いた。
今は獣の自分の体、意味は無いかもしれないけれど。
それでも言いたいホントの本音。





『ゴメンね?』



・・・・・ううん



『ありがとう』










そして目覚める寝惚すけキツネ。
きょとんと周りを見てみると、安堵の顔したおキヌちゃん
熱の理由が毛代わりと知り、たちまちキツネは真っ赤ッか。
でも嬉しそうなおキヌを見ると、まーいっか、なんて思っちゃう。


「おなかすいたよ、おキヌちゃん。
 カップ麺は在庫ある?」


そして帰った犬と会い、ちょっぴり気まずい時間を過ごし。
再びキツネの日々は始まる、ちょっぴり素直な微笑み乗せて。





これは蛇足なお話だけど、疲れ果ててる横島に
首を傾げたキツネさん、胸の疑問を投げ付けた。



「ねぇ、何で私のために苦労をしたの?」

「何でもいいだろ」

「感謝はしないよ?」

「いらんわバカタレ」

「女だから?」

「十年早い」

「仲間だから?」

「それはシロだろ」

「それじゃぁ、何で? 何でなの?」

「あのなぁ、俺に言わせんな。
 俺らは――――みたいなもんだろ。
 だったら当たり前だろが」










この子どこの子、キツネの子。
キツネの幸せ、何処にある?
キツネの幸せ、ここに在る。




キツネの『家族』は、ここに居る