本日 9 人 - 昨日 67 人 - 累計 182176 人

どうしようもない横島にタマモがやって来た

  1. HOME >
  2. 創作 >
  3. どうしようもない横島にタマモがやって来た





ドアを開け放した其処に、一人の少女が立っていた。
目にも鮮やかな金髪を持つ彼女は、いつもとは違う服装に身を包んでいる。
長袖の制服、セーター、ミニスカート、ハイソックス。
見目麗しい女子中学生、あるいは高校生と紹介されたら誰もが信じるだろう。
しかし、そんな彼女は人間ではない。
彼女の名は、タマモ。人に在らざる九尾のキツネ。

近付きつつある冬の寒さの為か、頬を微かに赤らめている。
紅葉と言うには淡く、桃と称するには色濃く。
切れ長の瞳を反らし気味にしている所を見ると
あるいは、その胸に抱く恥じらいが故だろうか。

我慢しきれずにか、視線は合わせぬままで
ようやく聞えるかどうかの小声で、彼女は言い放つ。




「えと・・・・・・その・・・・・・・・・・・・
 来ちゃダメ・・・・・・・・・・・・だった?」




部分的には口早に、けれど口篭もってもいそうなその言葉は
上手く全てを聞き取るには、少しばかり難しく。
けれど、その声に込められた感情の大きさは想像するに充分過ぎた。
結局、視線が上げられる事はないままに言葉は止まる。
部屋の主は、そんな彼女の姿から目を離す事が出来ない。
余りにも予想外であった現実に対し、思考が追いつけて居なかった。
あるいは夢なのだろうか。そうであれば、まだ納得もいこう。
しかし、何時までたっても目の前の彼女は消えてくれない。
そして、頬に吹き付ける風の冷たさもまたリアル過ぎた。
寒さを感じでもしたのか、小さく震える彼女の肩。

数秒か、数分か。どれほどの時間が経過したのかは解らない。
それでも覚悟を決めたのか。
部屋の主、横島はようやく動きを見せた。
タマモに背を向けて、部屋へと戻るという行動を以って。
全ては無言のまま。ゆっくりと閉じられるドア。
ぱたん、と閉まる音さえも静かなもので。
たった一つの扉で隔てられた二人の距離は
けれど、それが決定的な断絶であるかのようであった。





更に、数秒の時が経ち。
内側から、扉が開けられる。
顔を見せたのは、むろん横島。
先程、タマモを寒々しい外に残した彼は
手にした袋を、そっと優しく手渡した。
それを受け取ったタマモは微かに、本当に微かに微笑む。
浮かべている表情は、傷付いた誰かを慰めるような笑顔。
そして、彼女は歩き出す。最後に一度だけ、横島と視線を合わせた後に。
立ち止まってばかりでは、世界にも時間にも取り残されてしまうから。
横島は立ち尽くしたままで、そんな彼女の後姿を何時までも眺めていた。








――――――――――――――――――――







・・・・・・・・やほ、横島。
私がレンタルビデオ店でバイトしてるのは知ってるわよね。
延滞金払『えと』伝えに来たんだけど、およ『その』見当はついてるわ。
たんに忘れてたのよね? 同情はしないわよ、こっちも仕事だもの。
当たり前だけど、『来ちゃダメ』ってのもきかないわ。
電話より、直接来た方が面倒がなくて済むもの。
でも、あんた、自分ちだといっつもそんな格好だったりしてるの?
ひょっとして、使用中『だった?』