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妖怪学園天国

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とある次元の、とある場所
とある世界の、とある学び舎
時は未来か、はたまた過去か
あるいは今にと在るものか

例えばマトモという言葉、平凡人間示すのならば
かの学校に、マトモな者など一人も居ない
人狼、妖孤、化け猫。揃いも揃って人間外
たまに人間居るかと思えば、向こうの透けた幽霊姿
東を見れば虎男、西を見たらば半吸血鬼、北にはピアノで南に机
挙句の果てに妖怪よりも妖怪じみた煩悩少年居る始末

奇妙奇天烈摩訶不思議
珍妙騒動其れ日常

ある意味何より人間らしい、馬鹿さ加減じゃ誰にも負けぬ
そんな彼らの集った校舎、個性豊かな一つの学校





人呼んで、妖怪学園

ただいま願書受付中






―――――――――





長らくの冬が去り、春が街にやって来ていた。
道を歩いている人々へと吹く風からは寒気が薄れ
その身を包む服装も、次第に薄着へと移り始めているようだ。
ふと眼をやれば、道端には早々とタンポポも咲いている。
今は黄の色を見せるこの花も、そのうち白い綿毛へと変わるだろう。
世には永遠に変わらぬものなど無く、だからこそ全ては美しく。
春という目覚めの季節は、それを気付かせてくれるのかもしれない。



今日という日、学園内は喧騒に包まれている。
喧しくは在るが同時に賑やかということでもあり、しかし荒れてまではいない雰囲気。
周囲の空気を例えるならば祭りとでも言おうか。それも当日、真っ最中。
集まる多くの生徒達、その数という現実こそが、この音を生み出す根源であった。
周囲に林立する幟は彼らの決意の証。不退転を表す称号そのもの。
言わば、この日この時において学校は戦国時代を迎えているのだ。
とくと見よ! 幟に画かれた勇壮たる言葉の数々を!



『設立15年 茶道部 2F南棟』
『水泳部 初心者歓迎!』
『来たれ!!新入部員 演劇部』
『化学部』
『剣道部』
『光画部』



何処となく爽やかな感じも醸し出しているがそれは置いといて。
最後に上げたものを始め、名だけでは何をする部活動か解らないものもあるが更にさておき。
声を張り上げる者、ビラを配る者、直接声をかける者。
人によって、者によって、その行動は様々だった。
この日に名を付けるならば入学式。更に付け加えるならば部員勧誘初日。
式はまだ数十分も先なのだが、気の早い在校生達が声をかけ始めているのだ。
あるいは彼らも虫や花々と同様、この陽気に浮かれているのかもしれない。
春の季節に相応しく、活気の中を薄紅を帯びた桜の花びらが空で踊っている。

そんな喧騒が一際に大きな一角があった。
校門の近く、並んで立つ桜の木々の傍である。
耳を欹てれば、声も容易く聞こえよう。
目を細めれば、直ぐに姿も見えるだろう。
此れだけの人ごみの中で在校生の、あるいは新入生の注目を一重に集めている。
それだけ、人目を惹くに足る姿だと言えるのかもしれない。
確かに美しい容貌だった。通った鼻筋、少しばかりツリ目がちな細い目元。
春の煌く陽射を全身に浴びるその姿は、あたかも華のようで。
数々の視線を浴びながら、無表情に徹していた彼女は
突然にその唇へと笑みを浮かべ、感極まったように叫んだ。










「はーはははははははは!!!!
 春が来た来た春が来た! わらわの季節がやって来た!
 さぁ、愚民どもよ! この雄姿、特と観賞するが良いぞ!!!」

『自重しろ死津喪!!!!!』










桜の木々を隠すように、にょきりと生えたが死津喪比女。
それを駆除する為にやって来たのは、学園園芸部の皆々様である。
こうして突如と始まったバトルフェイズを、生徒達は観戦していた。
ここぞと賭けを始めたのが在校生で、おろおろしてるのが新入生であろう。まだまだ温い。




「何故じゃ! わらわとてタマモと似とるではないか!
 ほれ、名前とか名前とか名前とかあと名前とか」

「てめえは今言っちゃならねぇことを口にした!
 つか外見と中身と種族と存在と魂が違うっ!!!!」

「内容的重複はさておいて魂とまでっ!?」




しゃーぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ、とヒロイン格があげてはならない悲鳴を残して
花々や葉虫もろとも、死津喪比女は土へと返った。
根っこは無事なので放っとけばまた生えてくるだろうが
これに懲りて、暫くは成りを潜めるだろう。枯れる呪いとか怖いし。
以上。この学園では何の変哲も無い、春に見られる一風景である。





閑話休題。





害花駆除の一幕から少しだけ離れた場所に、新入生と見られる生徒が居た。
彼女はジト目になって、自分の頬を指先で掻いている。
この学校来たのって間違いだったかなー、と言わんばかりの表情で。

そんな彼女を囲うように、遠巻きにして生徒達が集まっている。
だが、決してその相手を害そうというのではない。
彼らの緩んだ表情を見ればそれは解る。なお、周囲を占めているのは男オンリー。
はしたなくも尻尾を振りたくり、頭の上に耳を出したままな姿の彼らはまさに犬畜生。
今にも踏んで下さいと頼み、もとい自分の部へと勧誘を始めそうだった。
そうしないのは互いに牽制し合っているためだ。均衡が崩れれば、すぐに我先にと近寄るだろう。

囲まれているのは、ブレザーに身を包んだ少女。金髪を頭の後ろで九つに纏めている。
端的に言って美少女である。どれ位かといえば、こんな状況が納得いってしまうくらいの。
チェックのスカートとハイソックスの間、剥き出しの太腿が目にも眩しい。
ブレザーの紺、リボンの赤、シャツとソックスの白、髪とボタンの金。
そして空の蒼と桜の薄紅とが相まって、一つの絵画的美を其処に体現していた。
詰まらなそうに頬を指で掻く様子は、周囲の騒ぎに呆れているようにも見えた。
しかし実のところ、クールさを醸し出す外見の全てはポーズに過ぎない。
よくよく見れば、彼女の手は握り拳を形作っているではないか。
そして、にゃりっ、と口元を歪めた彼女は大きく息を吸い込んで





「いやぁ、画期的でござるな!
 部活動! 集団活動! 迸るのは青春の汗!
 人間のあいでぁは、まったくサイコーでござる!
 お、其処行く新入生、剣道に興味は無いでござるか?」





傍から聞えた声に押されるようにして、その吸い込んだ息を吐き出す勢いでずっこけた。
声の主は銀髪に朱色の前髪が一房、均整の取れた体付きで尻尾をぶんぶか振っている少女。
犬塚シロの名を持つ彼女は、この学校でも評判の元気少女だった。
ちなみに声を掛けられたのは、金髪少女とはまるで別の一般生徒である。
突然のことに驚いたのか、当の彼は目を白黒とさせていた。



「え? えええ!?
 ぼ、僕のことにゃの!?」

「む、その語尾からするとお主猫族?
 しかし不肖この拙者、種族差別など行わんでござるよ!
 で、もしも良ければ、体験入部などは如何でござるかな」



ともすれば小学生にも間違われそうな少年は、頬を赤くして戸惑っていた。
シロの台詞どおり、猫っぽい瞳をまんまるに見開いて。
その姿に脈ありと見たか、更に搦め手へと移るシロ。こけた誰かのことなど気付いた様子も無い。
その後ろで、どっこいせ、と立ち上がった金髪の少女。済ました顔がちょっぴり土に汚れている。
口元が微妙に引き攣っているが、それでもしっかり可愛いあたりはもはや才能か。
仕切りなおしとでも言わんばかりに息を吸い込んだ彼女、タマモは



「私の決め台詞返せぇぇぇぇぇっ!!!」



との叫びと共に、なおも勧誘を続けているシロへと踊りかかった。
言いがかりもいい所だが、涙目で真っ赤なタマモの顔を見れば怒る気にもなるまいて。
こうして喧嘩を始めたシロとタマモの二人。一進一退の攻防は無意味にレベルが高く。
取り残された形の猫少年、ケイは目を丸くしてその場に立ち尽くしていた。









さて、そんな彼女達の背後で。



「・・・・・・まったく。
 何やってんのかしら、あの子達は」

「初対面だっつーのに、いきなりガチバトル始めましたね。
 ま、相性は悪いかなーとは思っちゃいましたが」



校舎に隠れるようにして、男と女の二人組みが居た。
二人ともにサングラスを掛けていて、無闇矢鱈に怪しい。
男の方は学校の一生徒にして屈指の問題児、横島忠夫。
そして女、美神の方もまた学園と無関係ではない。
いや、単なる生徒に過ぎない横島よりもずっと関係は深いと言える。



「ところで、何で俺らコソコソしてるんでしょうね?」

「気分よ気分。
 ついつい隠れちゃったんだから、今更顔出しにくいでしょーが」



シャネルマーク付いたほっかむりまでして、説得力の無いこと甚だしい。
何だかんだでアイツらのこと気にしてたんだろな、と思いつつも
横島にも成長の後が見える。何せ、今年は一応とりあえず最高学年だ。



「じゃ、時間も迫ってきたから私は行くけど
 あんたも遅刻なんかしちゃ駄目よ?
 年上としての自覚は保ちなさい」

「へーい、了解ッス」



片手を挙げて、やる気なさげに答える横島。
実に不安そうに眉根を寄せる美神だったが、本当に時間が無いのだろう。
こそこそと人目を避けながら、彼女はその場を離れていった。
それを見送った後で、横島は校舎の陰から再びひょいと顔を出してみる。
覗き込んだ先では、シロタマの二人が警備担当の夜叉丸に取り押さえられていた。






――――――――――――――――――








「ダメよ~、喧嘩なんてしちゃ~~~」

「「「すみませんでした」」」



二人、いや三人揃って仲良く頭を下げる。
場所は移って職員室。入学前に呼び出しくらった形である。
喧嘩の当事者であるシロとタマモばかりか、ケイも一緒に謝罪していた。
何故かといえば、成り行きとしか言いようが無いわけだが。
そんなわけでケイは性格柄もあって、大人しくしていたが
他の二人が矛を収めているのにはまた別の訳がある。
シロは経験上、タマモは直感で理解していた。
目の前の人物に逆らってはいけないと。



「お友達同士は仲良くしなきゃだめよ~」



のほほん、とした口調で六道冥子教諭。
そもそも友達じゃねぇよ、と口を挟む事も出来ない。
下手に刺激すれば破裂する爆弾のようなものなのだ、この女は。
もし泣かせでもしたら十二の式神が暴走を始め、校舎が最低でも半壊する。
そんな彼女が担当としてる式神関連の授業は、睡魔を誘うことにかけてはナンバーワン。
副担任である鬼道先生の助力が居なければ成立しないと、専らの評判である。
仲良さげに笑みを浮かべ合うだけでも苦痛な二人にとっては
素直にこくこく頷いているケイが、いっそ羨ましくもあった。



「それじゃぁ、もう式も始まるから~。
 解散するけど場所は解るかしら~?」

「はいで御座る」「はーい」「解りました」



三者三様の肯定を返し、即座に身を翻す。
間延びした口調の説教は、それ自体が拷問に等しかった。
じゃぁまたね~、との声を背中で聞いて、三人は廊下へと出る。
誰ともなく、やたらと疲れたような溜息が腹の奥から漏れた。



「ったく、無駄な時間を過ごしちゃったわ」

「お前のせいでござろうが、アホギツネ」



途端に、一触即発の雰囲気を纏う二人。
学習能力が無いのか、何処までも相性が悪いのか。
しかし、ぶつかり合うより先に、今回は横から邪魔が入った。



「あ、あの!!!
 早く行かにゃきゃ、式が始まっちゃうんじゃにゃいかと!」



いっぱいいっぱいな口調だった。
その口調に、シロとタマモからも怒気が薄れる。
猫としての癖だと思ってやるのが優しさかもしれない。
しかし顔を赤くしたケイを見る限り、やはり噛んだのだろう。
毒気を抜かれた二人は、何となく居心地悪げに
けれど、互いに顔を背けつつも歩き出した。
何とか衝突回避できたことに、ほっと一息つく猫一匹。



「そういえば」



だが、タマモによる呟きに再度尻尾がビンと立つ。
怯えるようにして台詞の続きを待つケイの姿に
流石に悪い事したかなー、と思いつつもタマモは言葉を続けた。



「あんた、さっき部活の勧誘してたわよね?
 何だっけ、けんどうぶ?」

「そうでござる。
 狼の! 狼による! 狼のための!
 そんな剣道部の部長さんをやってるでござるよ。
 故にキツネなどお呼びではござらん」



種族差別は無かったんじゃにゃいかにゃー、と
冷汗と脂汗を掻きながら、ケイは心中だけで呟いた。
しかし、タマモはそんな挑発など何処吹く風。
シロの答えを鸚鵡返しに呟くその脳裏で
言葉が、同名の漢字へと変換される。



「けんどうぶ・・・・・・」



犬道部。



「犬じゃん」



そして再度始まろうとした喧嘩を、ケイが必死こいて止めた。
君が泣くまで殴るのを止めない、と涙目で喚くシロは可愛くも情けなかった。










さて、入学式である。


普通は体育館のように、大勢を収容できる会場で行われる。
この学園も例外ではなく、普段は運動で用いられる場は
現在、全校生徒と教師とで犇めき合っていた。
途中馬鹿をやっていたのが悪かったのか、結局、式の始まりには間に合わなかった。
既に生徒達はみな整列しており、何処に並べばいいやら解らない。
シロはともかく、新入生であるタマモやケイは完全にお手上げ状態。
ならば下手に歩き回るよりは、と近くの列の後ろへと並ぶ三人。
ケイも含めて、その辺は割りと三人とも適当だった。何せほら、妖怪だから。
現在は壇上で、学園の校長が新入生へと訓辞を述べている。
亜麻色の髪を持つ、高価そうなスーツに身を包んだ見目麗しい女性だった。
客用スマイル満載のその姿に、三人は思わず小声で



「美神どの」「美神さん」「美神のおばちゃん」



と、またまた三者三様の呟きがなされた直後。
ずざぁっ、と二対の瞳がひととこへと集まる。
それはまさに、蛮勇なる勇者を見詰めるが如き畏怖の視線。



「・・・・・・何で全員美神さんのこと知ってるかは置いとくとして。
 ケイ、あんた自殺願望でもあるの?
 万一聞かれでもしたら、泣いたり笑ったりできなくなるわよ?」

「ひょっとしたら既に届いているやも知れぬでござるよ。
 美神どのは、極楽に行かせてあげるわ、と口癖のように言いながら
 実際にはそれと裏腹、地獄耳の持ち主でござるから」



えええ、と怯えるように首を左右に振るケイ。
そんな彼の台詞が聞えていたのか、何人かの生徒や教師から
気遣うような、痛ましげな視線が集まっていた。
ケイは自問自答する。僕、何か死亡フラグでも立てましたか?




『えー・・・・・・新入生の皆様には、単純な学業のみならず
 この学校での生活、生徒間及び教師達との交流を経て
 様々な意味で精神的な成長をしてくれることを望みます』



人外の聴力を発揮した美神は、しっかりとその発言を捉えていたけれど
状況が状況なので、可能な限り無視することに決めた。顔は引き攣りかけていたが。
大丈夫。二十台はまだ若者。三十来るまで大丈夫。
けれど何時かは行く道だ。忘れちゃいけない曲がり角。



『・・・・・・・・・・・』



いらん所まで想像が至ってしまい、言葉に詰まる美神。
それはほんの一瞬ではあったが、その瞬間を狙ったかのように。
何処からとも無く、体育館内にトランペットの音が鳴り響いた。





パパラパーン♪ パラパパパー パラパパ―♪





何処までも無駄に上手いその響き。
生徒達が音源を捜して、体育館の天井を仰ぐ。
そして骨組みをを足場に立つのは、窓からの光を背にしたシルエット。
よくよくソイツを見詰めてみれば、タキシードに身を包んだ男馬鹿一台。



「やはっ! 俺は」

「何時の間に着替えたぁっ!!!!!」



最後まで言い終る前に、怒声、美神のぶん投げたマイクが顔面に刺さった。
あああぁぁぁぁ~~~~~、との物悲しい落下する馬鹿野郎。
生徒もちゃんと理解しているのか、慣れた仕草で落下地点から退避する。
ずべしゃ、と珍奇な音立てて着地した横島だったが
ぴくぴくと痙攣している以上は、まだ死んでないようだ。まだ。
壇上から駆けて来た美神が、勢いそのままに放ったドロップキックが命中する直前までは生きていられるだろう。



「先生・・・・・マイペースさは長所でござるが
 時と場合によっては、短所でもあるでござるよ」



親の恥かしい姿を見られた子供のように、複雑な表情で呟くシロ。
ふるふる首を横に振っているのは、現実を認めたくないのだろうか。
たとえ横島のやることだからとて、全てを受け入れられるわけではない。
それもこれも彼を愛すればこそ。



「あのアホはホントに、何処であろうと変わらないわね」



いっそ感心したように、苦笑を浮かべて呟くタマモ。
シロとは相反して、その目に横島の行動を諌めるような光は無い。
ピエロやコメディアンを見る分には、騒動の方が楽しいのだ。
愛が在るかさておいて、見てて面白いのは否定しない。



「兄ちゃんは何時見ても凄いなぁ、かっこいいなぁ」



そしてキラキラと煌いた、まさにヒーローを見る瞳で呟くケイ。
タマモともまた違って、彼の双眸には肯定しか詰まっていない。
彼がこの先、行く道を誤らぬことを神に祈るばかりだ。



『えー、とりあえず場外乱闘に入りましたので
 本日の式はこれにて終了と致します。
 後ろに並んでいる生徒達から、順番に解散して下さい』



至極冷静に纏めに入ったのは、一年中鉄仮面を付けている公彦先生だった。
その冷静さや適格さにおいては、実に優秀な教師と言えるだが
夏に日向に置いておくと普通に死にかけるので、冷房機器が欠かせない難儀なお人でもある。
また、美神校長とは親子の仲でもあるが、ちょっと上手く行ってないのが悩みの種。
式などがこうして収集付かなくなった時、とりあえず先に進めるのは何時も彼の役目だった。
性格のためなのか、親子という関係が意味しているかは、彼自身にしか解らない。



「あんたという奴はぁぁぁぁっ!!!!!!
 年上としての自覚を持てと、しっかり釘さしたでしょうがぁぁぁっ!!!」

「堪忍やー!!!
 新品のブレザーに身を包んだ初々しい新入生を見てると
 ついつい大阪人としての血と男の本能が騒いだんやーーー!!!」

「アホかーーーーーーーっ!!!
 去年とおんなじ行動するなんて、この一年全く成長してないの!?」

「トランペットの腕前は去年以上の成長を遂げましたが!」

「ンなとこで才能の無駄遣いをするなぁぁぁぁぁっ!!!!!」



親指立てて自慢そうに答えた激馬鹿の頭を、げしげしと踏む。
生徒達の大半は既に体育館から去り、教師達もそれぞれに散って
後に残っているのは、数名の教師とタマ、シロ、ケイの三人。
そして、もう一人。ブレザーに身を包んだ高学年の女子生徒。
艶やかな黒髪と優しげな風貌の彼女は、氷室キヌ。
何となく動けなかった三人に目を止めると、小さく微笑みかけてきた。



「三人とも、すっかり仲良くなったのね。
 学校でも家でも、これからよろしく」



そんな言葉にシロとタマモは、今更ながら納得した。
在校生であるシロはこの一年、美神の家に間借りしている。
そして横島達から、今年からは家族が二人増えると聞かされていた。

以前より、タマモはこの学園への入学を勧められていた。
そして今年から入学と美神家への居候が決まり、同時に注意を受けていた。
うちは他に二人の妖怪が居るので仲良くするように、と。
恐らくは、ケイも似たようなものなのだろう。
わたわたと美神を止めようとしつつも、何も出来ないでいる今は聞けないが。



「いっつもこんな生活なの?」



呆れたように疲れたように、タマモは零した。
答えを求めたわけでもなかったろうが
シロは律儀に考えた末、何でもないように




「今日は比較的静かな方だったでござるよ。
 物理のカオス先生も、化学のヌル先生も謹慎中だったし
 何より、冥子先生の暴走が無かったでござるからな」 

「あえて普段がどうなのかとかは聞かないでおくわ」

「その方が咄嗟に諦めつくでござるからな」

「知るまでは幸せで居られるしね」



はぁ、と二人揃って溜息を吐く。
そして顔を上げて視線を合わせ、溜息を苦笑へと換えた。



「退屈だけはしなさそうね」

「それがウリの学校でござるよ」



視線を美神達のほうへと戻してみると
何と、ケイが横島の救出に成功したようだった。
ぐいぐいと涙目で押されては美神も抵抗できなかったと見える。
苦笑を深くして、そして改めて新たな家族へと挨拶を行う為に
タマモとシロとは、競い合うようにして一歩踏み出した。






体育館の扉の先では、桜色の春風が舞っている。

いとも鮮やかに、何とも綺麗に輝きながら。

まるで、彼らの前途を祝福するかのように。