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距離感

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彼は追いかける 彼女が遠ざかる
彼は飛び掛る 彼女が殴り飛ばす
彼は近付く 彼女が前へ歩き出す

彼が居ない 彼女は辺りを見渡す
彼が見つかる 彼女は笑みを零す
彼が追いかける 彼女は歩き出す



追いかける彼と 歩き続ける彼女と
走り寄る彼と 立ち止まる彼女と

気が付かないうちに縮まる
気が付いてしまえば離れる


―――――――そんな、彼と彼女の距離










彼と彼女は肩を並べる
それは少し動けば触れ合える距離で
けれど、決して触れはしない
何故なら、彼女は幽霊だから

彼と彼女は肩を寄せ合う
それは少し動けばぶつかり合う距離で
けれど、決して当たりはしない
何故なら、彼女は幽霊だから

彼と彼女の距離は零となる
でも、同時にその距離は無限
何故なら、彼女は――――――――――




それから、どれだけ時が過ぎたろうか




彼と彼女は一緒に歩く
それは手を伸ばせば繋げる距離で
けれど、どうにも手が伸ばせない
何故なら、彼女は生きているから

彼と彼女は一緒に生きる
それは想いを告げる事が出来る距離で
けれど、どうにも伝えられない
何故なら、彼女は生きているから

彼と彼女は傍に居る
でも、その距離が縮まらない




触れ合えなかった
触れ合えるようになった
だから、少しだけ離れてしまった

――――――――そんな、彼と彼女の距離










彼女は彼の元へと走り
彼女は彼に飛び掛り
彼女は彼を押し倒す

彼は彼女を受け止めて
彼は彼女に押し倒されて
彼は彼女の頭を撫でる



彼は彼女と散歩する
楽しさ交わし 喜び交わし
時には涙も流しつつ

彼と彼女は散歩する
言葉を交わし 微笑み交わし
時には苦笑を交わしつつ



彼女は彼と散歩する

腕を抱えて 抱き締めて
押し倒しては 頬を舐め
傍に居るから 触れ合えるから
彼のことが大好きだから
二人の距離を縮めたい


――――――――――そんな、彼と彼女の距離










夕暮れに沈む遊園地
彼と彼女は背中合わせ


彼が見つめているのは夕陽
彼女が見詰めているのは風船
彼も彼女も 瞳はお互いを映さず
ただ感じられるのは 背中を通して伝わる温もりだけ

彼はそっと空を仰ぎ
彼女はそっと目を瞑る
彼も彼女も 瞳は過去ばかりを映し
けれど感じられるのは 今この時を表す温もりだけ




ふと 首を動かす




重なる視線が乗せるものはなく
ただお互いの顔を映すだけ
浮ぶは苦笑か あるいは微笑みか

しばらくもせぬうちに
また顔を元に戻して
彼と彼女は背中合わせ
だけど視線はより優しく




近付かない 遠ざからない
ただ傍にいて それ以外の何でもない


――――――――――そんな、彼と彼女の距離









彼は皆の真ん中に
彼女も皆の真ん中に

彼はまるで日向のように 皆の心を暖かく
彼女はまさしく帰る家 皆の心を和ませる



忙しなく動き回る彼は 皆の意識を惹き付けて
そんな皆を抱き締めながら 優しい瞳で見守る彼女
時に彼は彼女に説かれ 時に彼女は彼を嗜める

彼がいないと 皆の心はざわめいて
彼女がいないと 皆が落ち着く場所が無い

彼も彼女も全く違う
けれど何処かで似たもの同士



動かないからこそ ずっと傍に
変わらないからこそ ずっと近くに
たとえ時は移ろうとも たとえ今が過ぎようとも

心だけは いつまでも ずっと


――――――――――――そんな、彼と彼女の距離



そんな皆の――――――――距離感