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天にまします我等がカミよ

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「そーいや、神父って隠れSFファンだったんスよね?
 でしたら、仮面ライダーとかウルトラマンとかも好きなんスか?」



それは、神父を前にして横島の心に何となく浮んだ疑問だった。
給料日まであと一週間。食べ物も枯渇し、財布も風邪をひいてしまった横島は
学校帰りに、貧乏仲間でもある神父を頼りとして教会へとやって来ていた。
事務所の良心、おキヌちゃんを頼っていないのは
昨日既に食事を作って貰っており、流石に罰が悪い為である。
珍しい来訪者に神父は最初驚いた顔をしていたものの
事情を聞いて快く菜園の野菜達を差し出してくれた。聖職者の鑑である。
受け取った横島が感謝の言葉を述べると共に、ふと口をついて出たのが冒頭である。
突然といえば突然の内容に、神父は軽く目を丸くして、そして口を苦笑で歪ませつつ



「いや、私が好きなのは主に映画などでね。
 ヒーローの活躍が好きだったのは、むしろ美智恵君だよ」



あ、そーなんすか、と横島は納得した。それで会話は終了し、横島は家路についた。
単に以前の過去話を思い出しただけであり、問い詰めたいわけではないからだ。
横島ともあろうものが、神父のことを深く知りたいなどと思う筈も無い。
だが、彼がもう少しさっしが良ければ気付けていただろう。
神父の瞳が、微かな悲しみに揺られていた事を。







その日の夜。

神父は一台のテレビを前にしていた。
其処に映る画像は、一体のヒーロー。
三分と言う制限時間の中、戦いを続ける彼の姿。
神父は瞠目する。
ヒーローが好きだった。こうしてビデオとして持っているくらいには。
何時からだろう、ヒーローを信じられなくなっていたのは。
何時からだろう、心から情熱が失われてしまっていたのは。
再びテレビに目を向ける。其処には過去が映っている。
今という時間から過去を見詰めている。その事が少しばかり哀しく思えた。
そして、ヒーローは掛け声を上げた。










『へァッ!!!!』











神父は泣く。滂沱の涙を流す。
取り戻せない時間に向けて。
過ぎ去った時間に向けて。
進行し続ける額に手をやりながら。