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眠り姫

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彼女は姫 眠り姫

氷の寝床で眠り続ける

王子を夢見るお姫様








寝坊を続けて幾百年

心が体を離れては、ふらりふらりと迷子を続け

そんなある日、導かれるように出会ったのは

厳しい魔法使いと情けない王子様



泣いて、笑って、驚いて

そこから始まる彼女の時間

そこから始まる彼女の夢



けれど、彼女は気付かない

それが終わりの始まりと












魔法使いはとっても厳しい

お姫様でもこき使う、それも格安賃金で

けれど、不満を抱きはしない

お姫様は知っている、魔法使いの優しさを

影でこっそり守ってくれる

危ない事はさせたりしない

天邪鬼な彼女らしい、気付かれ難い優しさを





王子はとっても情けない

お姫様にも縋りつく、泣き言だって吐き捲る

けれど、馬鹿にしたりはしない

お姫様は知っている、王子様の暖かさ

自分にちゃんと気付いてくれる

怯えながらも庇ってくれる

鈍感な彼らしい、解り辛い暖かさ





厳しい魔法使いが王子を叱り

情けない王子様は笑って誤魔化し

そして二人は、お姫様に手を伸ばす

お姫様は両の手で、二人の家族の手を握る



やっと出来た自分の居場所

此処はまるで日溜りのよう

暖かな日々に微笑み浮かべ

そして続く、幸せな時間










日々を重ねて、絆は増えて

想いは深まり、思いは募り

――――――――――そして終わりの時が来る










激しい戦いも全てを終えて

敵の悪魔も打ち倒し

あとは、お姫様が目覚めるばかり

物語的にはハッピーエンド

御伽噺ならめでたしめでたし



けれど、誰も笑えていない

夢の時は、今こそ終る

それを皆が知っていたから






あるいは、続けられたのかもしれない

お姫様が眠り続けていたのなら

お姫様が起きたりなんてしなければ

また同じように、三人の幸せな日々が



だけど、魔法使いは許さない

起きられる可能性を捨て去るなんて

手に出来る幸せを捨て去るなんて

そんな選択、厳しい彼女は許さない



そして彼女よりも、誰よりも

彼が、それを許さなかった

頑張ってきたお姫様が、自分の幸せを掴めない

そんな結末、許せる筈がないだろう?

情けない王子様は、情けなく泣きながら

けれど一言だって、弱音も泣き言も吐かずに

氷を壊す一撃を放ちつつ、ただ叫ぶように口にしたのは










――――――――――生きてくれ








泣くお姫様と 泣かない魔法使いと

ぐしゃぐしゃに崩れた笑みを浮かべる王子様

想いは互いに重なりながら、訪れるのは別れの時










彼女は姫 眠り姫

王子を夢見たお姫様

けれどもう、夢は覚め――――――――――






ようやく目覚めたお姫様

新たな幸せを掴んだお姫様

けれど、呼ばれたように振り返り

その目が映すは遠ざかる車、過ぎ去る時間

頬を流れる雫の故は、彼女自身にすら解りはせずに










そんな彼女を見送ったのは

厳しい魔法使いと、情けない王子様

きっとまた会える

そんな不確かな思いを、確かに感じながら

だから、さよならは言わない

だから、さよならなんて言わせない

だから声は掛けぬまま、そっと其処から立ち去った










夢の時間は終わりを告げた

でも、そのことに後悔なんて無い



お姫様も、魔法使いも、王子様も

想う気持ちが涙を流させるけれど

何も失くしたりなんかしないから