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ひねもすのたりのたりかな

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あ、さて

しばしお時間宜しいですか。



こいつぁ、ただの戯言話。

心躍る展開は無く
涙溢れる感動は無く
胸突き刺す衝撃は無く

何かが変わったわけではなく
何かを得られたわけでもなく
言わば、単なる日常風景。
暇を潰す以外の何の役にも立ちゃしない。

狐と人との化かし合い。
少年少女の話し合い。
問うて答える押し問答。

そうは言っても、それで十分十二分。
所詮は駄文戯文の類い。
無聊の一つも慰められれば、
それこそ御の字というもので。



さてもつまらぬ前口上。
言い訳紛いは程ほどにして
それでは、早速始めましょう。










此処におわすは狐の少女。
ある日、目にしたある本に
書かれていたのは、過去の顛末。

曰く、稀代の悪女として
曰く、傾国の美女として
曰く、古代の妖女として

全ては、面影すら定かではない記憶の彼方。
けれどもそいつは、確かに彼女自身を記した文章。

読み終えた後に、溜息一つ。
彼女が国を滅ぼして
国が彼女を滅ぼして
後に残るは無人の荒野。

生き抜く場所を求めた少女。
拠り所は大きければ大きいほどに望ましく
故に、それが王であるのは当然の帰結。

欲しかったのは平和だけ。
けれども、王は彼女に溺れ果て
それゆえ、国は彼女を許しはせずに
繰り返されるは悲劇の結末。

生きる事が罪なのか。
死ねぬ事が罪なのか。

ぶん、と頭を大きく振って
放り捨てられますは、愚かな思考。
らしくないな、とまた溜息。

そんな彼女に浮かんだ思いつき。
女を取るか、国を取るか。
あの煩悩少年ならば、一体どちらを選ぶのか。

かの少年を知る者ならば、
問うまでもない質問と、笑い飛ばす事にございましょう。
己の欲望に正直な彼のコト。
目先の欲に駆られた挙句、女を選ぶに決まっていると。

狐の少女は苦笑を浮かべ
けれども、そこに嘲りは無く
隠し切れない親しみ込めて。

そう思いはしたものの
彼の口から聞きたかったのか。
パタパタ走って彼の元。





国を選ぶか、女を選ぶか。
世界を選ぶか、彼女を選ぶか。

私という存在を、果たして認めてくれるのか。





突然突如で、びっくり仰天。
前置き無しにて、いきなり問われた煩悩少年。
その質問に、着いて行けずに目を白黒と。
その顔見つめる狐の少女。
少年浮かべる表情を、見つめる少女に好奇はあれど
埒があかぬと思いもしたか、口にしたのは同じ問い。



国と女、アンタだったらどっちを選ぶ?



問われた彼は、しばしの逡巡。
眉根を寄せて、似合わぬ表情。
狐の少女は怪訝な顔つき。
このような顔をする男であったか、と。

うん、と頷き、口開き
熟考の後に選んだ答えは
彼女にとって、全くもっての予想外。
国を選ぶという答え。優等生な大正解。

その返答に、狐の少女は憮然とした顔。
それも当然と言えましょう。
聞きたかった答えはそれではなくて、
自分の在り様を肯定してくれる言葉。

ポン、とその身を狐に変じ
もはや興味は失せたとばかりに
彼の方には一瞥さえをも加えずに
ぷい、と顔を彼方に向けて。

我侭極まる振る舞いに
少年は軽く苦笑を浮かべた上で
座ったままにて手を伸ばし
ひょい、と持ち上げ膝へと落とし
軽く撫でるは狐の頭。

実に陳腐な誤魔化しと
狐の少女は怒りもしたが
膝の温もり、春の陽だまり
一つの身では、二つの敵には抗えず。





ささくれ立った気持ちは薄れ
いつの間にやら夢見心地。
ゆらりゆらりと揺れるは意識。
春の陽気に酔いでもしたか。
全ては曖昧、夢の中。

故に聞こえたその声が
夢か現か、定かではなく
全てはあやふや、風の中。



国を選んだこの身にあれど
もしも次の機会に会ったらば
どうか共に堕ちるを許して欲しい
お互いに一人で逝くのは寂しかろう、と。



窓から差し込む春の陽射しは暖かく
緩やかな時を感じて日向ぼっこ。
ポカポカ陽気が眠気を誘い
うつらうつらと舟を漕ぎ

ふわぁ、と大きな欠伸を一つ。
目尻に浮かんだ涙が一つ。
ぐい、と指にて拭った後で
顔に残るは微笑み一つ。










求めた平和は此処にあり
故に、何かが得られたわけではなく

信じた想いは此処にあり
故に、何かが変わったわけでもなく



だから、コレは単なる日常風景。
暇を潰す役にも立てば勿怪の幸い。
桜もまだ満開とはいかぬ早春のコト。
朗らかにしてうららかな、昼下がりの出来事でございました。