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例えばこんな結末

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瞳には、隠し切れない悲しみが宿り
けれど、それを道化の面で覆い隠す。



笑ってさえいれば―――――

痛みにも苦しみにも―――――

気付かないでいられるから―――――







魔神との戦いは終わった

復興不可能な程の被害はほとんどなく

心に深い傷を負った少年を除いて





横島は船の上で水平線を眺めている。
だが、その目は眼前に広がる海も、白雲の浮かぶ青空も捕らえずに
ただ、美神から聞いた言葉のみを噛み締めていた。



―――――自分の子供をルシオラの転生先にする



遠い未来の事だ。
彼女もいない横島に実感が生まれるはずも無い。
何よりも、その彼女が亡くなってしまったのだから。

他の方法は誰にも思いつかなかった。
ルシオラと再開する可能性
それが零では無かった事は嬉しいが
だからといって、生き返れるようになった訳ではない。
複雑な思いが横島の胸に去来していた。

けれど、膝を屈するわけにはいかない。
彼女に会えて良かった。
その思いに嘘はない。
形は違えども幸せにしてやれる可能性はまだ残っている。
彼女の妹たちへの償いなど、やらなければいけない事も数多くある。



だから、前へと進もう
彼女のためにも
自分のためにも



痛みは今だ残っている。
だが、それに負けないように
一つ一つを口にして、胸の思いを明確な形にして行った。
傍にいる美神令子と氷室キヌのことも気遣いながら。










(そうねヨコシマ
 恋は実らなかったけど・・・・・・
 ・・・・・・私たち、何もなくしてないわ)



横島の耳に彼女の声が聞こえてくる。
その声は横島の葛藤を優しく溶かしていった。
静かであり、それでいて熱く強い愛しさに身を浸される。

止まる事もなく、言い澱む事もなく
続けて聞こえてくる彼女の言葉



(魔族には生まれ変わりは別れじゃないのよ。
 今回は千年も待ってたひとにゆずってあげる、パパ)



くすっ、と笑みを含んだ彼女の言葉。
つられて横島の口元にも笑みが浮かんだ。

切なさを含んだ柔らかい微笑み。
こんな時でも笑えるんだな、と思う。
ほんの少しの自嘲を込めて。

聞いてばかりもおかしい気がした。
だから自分も答えを返そう、心の中だけの呟きで。





(そうだな、ルシオラ・・・・・・










 ・・・・・・・・ちょっと待て










 何でいるんだお前!?)





思わず叫んだ、心の中で。
運良く口から声は出なかったが
もし美神達に聞かれていれば、病院へ直行させられていた事だろう。

横島の疑問も当然と言える。
消え失せたものと思っていたルシオラの声が聞こえてきたのだから。
最後の戦闘において、残留していた人格と話していた時のように
幻聴とは思えないくらいにはっきりと。



だが、聞き方がまずかった―――――










(ひ、酷いわっ!
 私はいちゃいけないっていうの!
 今の横島にとって、私はもう過去の女!?
 一夏の甘く切なく、ほろ苦い思い出!?
 出切ることなら忘れ去りたい、遠い日の過ち!?
 過ごしたアノ日々は嘘だったの!!
 重ねあった唇は幻だったとでも言うのぉっ!!!)








――――――――――ルシオラ大暴走










涙声で色々と間違えたことを言いまくるルシオラに対し
横島は慌てながらも、説明を加えた。


(いやいやいやいやそうじゃなくて!!!
 お前消えたんじゃなかったのか!?)





(うん?
 何でか、私の人格だけ残っちゃったみたいね。
 ヨコシマ自身の特性によるのか
 奇跡的確率で私の魔力だけが分離したのか
 あるいは、カミサマの気まぐれなのか
 どれかは、わからないけどね。
 今までは、ヨコシマの深層意識にいたのよ。
 安定しきってるから、たぶん消えないと思うわ)




あっけらかんとした返答に言葉を失う。
どうやらルシオラ自身もわからないようだ。
ルシオラが消えていなかった事への喜び以上に
突然、露にされた事実に当惑を抑えきれないようである。
しかし、もし最後の理由によるとしたら
随分と、神の性格は悪いと言えよう。




(・・・・・・・・・・ルシオラ)

(何、ヨコシマ?)

(もしかして、とは思うんだが・・・・・・俺の考えてた事、知ってる?)





ポッ





(ええと、お前のことは絶対に忘れないよ、とか
 愛していると伝えたかった、とか
 今すぐにでもこの腕に掻き抱きたい、とか)

(ノォォォォォォォォッ!!!!!)





(もっと一緒に夕陽を見たかったんだ、とか
 俺は俺らしくいなきゃお前が悲しむよな、とか
 それでも会いたいんだルシオラ、とか) 

(待て待てまてマテウェイトーーーーーーーーー!!!)





(あと、言葉だけじゃなくて今までのヨコシマの行動とかもね。
とーぜん、どういう風にシてたかも知ってるわよ。
 ヨコシマって両ききだったのね。
 でも、美神さんやベスパはともかく
 流石にパピリオは危ないんじゃないかしら。
 一回だけだったとはいえ、人間の世界では、ああいうのロリコンっていうんでしょ?)

(じゃすたもーめんっぷりーーーーーーーーーーづ!!!!!)



(大丈夫よ、本当に手を出したのならともかく
 想像上で色々シてたことまで、とやかく言う気はないわ。
私のことを思いながらシてたのが一番多かったしね。
想像の中で行われてた色々なプレイ・・・・・・・
 一つも忘れるなんてしないわ)

(忘れろ!いや忘れてください頼むから!!!)



言うなれば、今の状況は羞恥プレイであろうか。
拳を握り締めながら熱く語るルシオラに対して、
涙を流しながら横島は懇願した。
そりゃあ、泣きたくもなるだろう。



(あ、そうそう、忘れてたわ
 私だけじゃないのよ、ヨコシマの中に居るの)



ぽん、と手を打ってから、
さも何でもない事のように言って、身を横に動かした。
するとそこには、片手を爽やかに上げた、



(やあ)



アシュタロスが居た。





(はっはっは、これからよろしく少年)

「なんでてめーまでいやがるんだよオイ!!!」






ついに横島は頭を抱えた。
抱えるしかなかった。










「み、美神さん!横島さんが赤くなったり青くなったり
 果てには頭抱えてしゃがみ込んでぷるぷる震えてます!!!」

「・・・・・・そっとしといてあげなさい。横島君も辛いのよ」








現実の世界では、何だか色々言われていたが、
今の横島自身には、そんな事に気付く余裕は無かった。






(『お前の罪を許そう』
 その言葉が聞こえたと思ったら君の中に居た)

とんとん 『よこしまただおのいっしょう』





(そして、君の人生を見させて貰ったのだ。
 その時々における君自身の感情を含めてね)

ぱらり 『よこしまただおは、おんなずきです』





(・・・・・・・・・・)





(素晴らしいほどの感情の色彩に溢れていた。正直羨ましかったよ。
 己が牢獄の中にいると考えていた私とは大違いだ)

さらり 『よこしまただおにはみさかいがありません』





(それで気付いたのだ、私は何も知ろうとしてなかったのではないか、とね。
 結局のところ、どんな生き方であれ考え方次第で変わるのだろうな。
 君のように、酷い境遇でも諦めない姿は見習うものがある。
 そう、まるでゴキブリを思わせる不屈の根性だ)

ぺらり 『にんげんはとーぜんとして、ゆーれい、よーかい、まぞくなんでもこいです』








(だーーーーーーーーーーっ!!!!!
 語るんなら真面目にやらんかいっ!
 なんだその紙芝居はっ!
 俺は夏休みの自由研究に使われるセミかーーーーーっ!!!)

(む、いや私の感じた感動を君自身にも知ってもらおうと。
 どうやら、君は自己卑下が過ぎるようだし。
 言葉よりも絵を交えた方が解りやすくないかね?
 更に理解しやすいよう、全部平仮名にしてみたのだが)

(いらんわっ!知れるかっ!!解らんっ!!!)



どうやら、アシュタロスは結構な天然のようである。
いや、ひょっとすると横島の人生を追体験した事で性格が変化したのかもしれない。



(いや、簡単には信じられないかもしれないが
 本当に、私は君の人生に感服しているのだよ。
 人間といえば、取るに足らない脆弱なる存在と考えていたが
 その考えも改めるべきだったと思うほどに)

(そ、そーなのか?)

(うむ、君の持つ類稀なる情熱は私が久しく忘れていた物だ。
 特に女性を前にしたときの煩悩!
 魔神たる私でさえ、その大きさには驚かされた。
 覗きなどにおいて、遺憾なく引き出される身体能力も賞賛に値する)

(もう黙れ!いや黙ってくださいお願いします!!!)



横島は懇願した、横に居るルシオラの目付きが恐くなったからだ。
これだけ知られているということは
つまり、同じようにルシオラも知っているということで・・・・・・



横島の胸には、先刻まで占めていた切なさは欠片も無く
世界に対する、呪詛なんだか感謝なんだか、
どちらともとれない思いに埋め尽くされていた。
その思いを、とりあえず言葉にして絶叫する。
とりあえず、胸の中だけで。



「あーーーーーーもう何がなんやら!!!
 恨めばいいのか喜べばいいのかすらわからんぞ神ぃぃぃ!!!!!」



(ぬう、君も反旗を翻すのかね?
 先達としては、止めるべきか煽るべきか悩む所だ。
 何より、それはルシオラを復活させてからの方がいいんじゃないか?)



途中、突込み所はあったが、
聞き逃すわけにはいかない内容に、横島の気は引かれた。
凄い形相で詰め寄りながら、



(で・・・・・・できるのか!復活が!?)

(うむ、もともと魂はぎりぎりで足りてないだけだからな。
 確かに、人間の魂をどうこうする事は難しい。
 だが、難しいだけであり不可能ではないのだ。
 力の方向性を完全にコントロールする、君の文珠
 ぎりぎりまで集められた、ルシオラの霊波片
  そして、私の知識があれば、恐らく復活は可能だろう。
 少なくとも、子供に転生させるという方法よりはずっと確実だ)



もはや言葉も無い。
ルシオラの復活が可能であるという事実は喜ぶべきなのだろうが、
余りに状況変化が早すぎるため、横島の頭は真っ白になっていた。

そんな彼を、にこにこと見つめているルシオラ
そんな彼に、うんうんと頷いているアシュタロス



(うむ、愛とは素晴らしいものだな。
 私もベスパに答えてやれたならば、
 ・・・・・・いや、それこそイフの話か。
 過去を思うくらいならば、見るべきは今だな。
 そう、プラトニックラブというのも悪くないかもしれん)



もはや、別人としか思えない発言である。
これも横島効果といえようか。






少々、君が危険かもしれないが・・・・・・)

(危険がどうした!
 やれるんだな!?ルシオラは復活できんだな!!?)



絞め殺さんばかりの勢いで、言葉を重ねる。
ルシオラは不安そうに、申し訳なさそうに
けれど、少しだけ嬉しそうにその様子を見ていた。



(結論だけを言うと可能だ、時間はかかるかもしれないが。
 ルシオラもそんな顔をする必要など無い。
入念に下準備を行っていれば危険も、その分減るだろう。
 何より、君は英雄なのだ。


(ところで・・・・・いいのかね?
 先程から物凄い目で見られているようだが)



・・・・・・・・・・はっ!



・・・・・・ルシオラとアシュタロスは意識内にいるわけで
・・・今までの会話は白昼夢みたいなものなわけで
会話なんぞしてたら、やばい人にしか見えないわけで



そーいや、何度か思うだけでなく口にしてたよーな・・・・・・・・・・



(まあ、頑張って説明してくれたまえ)

(任せたわね、ヨコシマ♪)





(またんかお前等ーーーーーーー!!!!)





ようやく焦点が現実世界に合わせられた。
ぎりぎりと、音を立てそうな動きを以って首を後ろへと振り向かせる。

そんな彼が見たものは

携帯を取り出し深刻な顔で何やら話している美神
ハンカチで目元を拭っているおキヌ

・・・早くフォローしないと取り返しがつかなくなりそうだ。







これからも、色々と問題はあるだろう


まずは、哀れみの目を向けてくる美神さん達に、事の次第を説明しなければなるまい。
その困難さを思うと、目眩さえしてきた。
話を聞いてもらうだけでも一苦労だ。





けれど

これから始まる馬鹿騒ぎを思う、横島の顔には

久方ぶりに、心からの笑みが浮かんでいた








何だかんだが起こって

すったもんだを経て

結局、誰も失われなかった終わり方



コレもまた一つの結末