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ア○○パンマン

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さて―――――――――此処から始まる馬鹿話。

出てくる輩は粒ぞろい、ある意味極めた馬鹿ばかり。

先の読めないこの世界、馬鹿が織り成す大喜劇。

論理の全てを蹴り飛ばし
常識なんぞは踏み躙り
笑わせましょう、全てを賭けて。

お暇と我慢と興味と忍耐。
それらが続く限りにおいて
どうぞお付き合いの程、よろしくお願い致します。










明るく照らされた広い草原
負けぬくらいに明るい声が辺りに響き
見上げれば、抜けるような青空が広がっています。

草原を走り回っている、男の子や女の子。
元気一杯で、見ている此方の顔も綻びそうですね。
猫耳や狐耳、犬尻尾に狼尻尾もふりふりと。

大きな翼を動かして、勢いよく風を着る影が大空に。
角を生やした女性が飛んでる時も、たまにあります。
頻度は更に少ないですが、お猿さんが飛んでる事も。

見た目と行動で解るとおりに、
彼らは人間でも普通の動物でもありません。
え、人間はいないのかって?
いえいえ、勿論、人間だっておりますよ。
この世界は、人と妖怪と神魔とが共存しているのです。
ある一匹を除いて、みんな
言葉によるコミュニケーションを取る事ができたりします。

時折、人間同士が、あるいは狼と狐が仲違いをする事もありますが、
修復不可能になるほど、深刻な喧嘩をする事は無く、
周りの取り成しで、すぐに仲直りを致します。



とても優しく、とても美しく、とても平和な世界です。










さて、そんな世界の一角
机を背負って、てくてくと小道を歩いている女性がおりました。

彼女の名は、愛子。
机を背負ってるからって、何もフェチというわけではありません。
彼女は机の妖精なのです。
・・・・・・はい、解ってます。
妖精って何だ、と聞きたいのですね。



長年使われてきた道具には、魂が宿ります。
それに対する思い入れが強ければ強いほどに。
そして、一定の力を備えた時、道具は妖精と化すのです。
他の妖怪と違う所は、元々は単なる道具に過ぎなかった点です。
使う人たちの思い入れさえ大きければ、
道具も意志を持ち、体を作る事ができるようになり
己自身の幸せを探しにいけるのです。



さて、愛子の方に話を戻しましょう。

彼女は年頃のお嬢さんです。
机でいた年代を換算すると、お婆さんといってもいい年齢ですが
女性に対して年の話をするような奴は、埋められても文句は言えないので、
ここでは、お嬢さんという事にしておきます。
彼女は学校の備品として長年使われておりました。
そのためか、青春という言葉に特別な思い入れがあるようで


『青春よぉぉぉぉぉっ!!!』


と叫びながら、バタバタと辺りを駆け回る事もあります。
このため、お友達からは、バタ子さんと呼ばれる事もありました。
そんな彼女は、ある所でバイトをしています。

今、こうして歩いているのは
丁度、そこへと向かう途中だったのでした。










紅顔の美青年が、暗い一室で一心不乱に何かを作っています。
彼の名はピエトロ・ド・ブラドー。
職業はパン職人・・・・・・・・



―――――――――ではありません










パンツ職人です。










いや、正確には下着職人なんですが。
パンツだからといって馬鹿にしてはいけません。
もしもこの世にパンツが無かったら一大事です。
いったいどうやって、好きなあの子に会いに行くというのでしょう。

とはいえ、奇麗事で世の中は立ち行きません。
毎日が下着塗れという状況はに、ピートも最初は嫌がっておりました。
そんな彼がこういう職についたのは理由があります。



昔々、職業を皆に割り振られるという事がありました。
最初は好き勝手に職につこうとしていたのですが、
職業の人気不人気により、混沌として訳がわからなくなってしまったのです。
そこで、大人たちの数だけ職業を考え、
それらを皆に割り振るという形式を取る事にしました。
社会生活をより効率的かつ快適に営む上では、
その方法が最も適していると考えられた為です。



豆腐屋のタマモ(でも売ってるのは油揚げ)
教師の美衣(母性という点では並ぶものおらず)
スポーツジムの小竜姫(ときおり重症患者がでたりしますが)
自警団のワルキューレ(平和なのでいつも暇そう)
大工の雪之丞(妙に似合ってそうです)



それで最後に残ったのがピート、そして下着職人でした。
ピートが最後まで残ったのは、ひとえに彼が優柔不断だったため。
そして、男女共に下着職人を選ばなかったのは
男物、女物、関係なく作らなければならないからです。
繕いなどを頼まれては、たまったものではありません。

他に仕事が無いにもかかわらず、ピートはいい顔をしませんでした。
選んだのではなく、押し付けられるという形なのですから
それは、気分がよくなるわけが無いでしょう。
女性陣も、少々腰が引け気味でした。
いくらピートが美形とはいえ、
自らの下着類を作られるとあっては、尻込みするのも当然で
できれば、女性がなってほしいと考えてたのです。
千日手のような様相を称え始めた話し合いにおいて
突然、ピートの親友、雪之丞の鶴の一声が。



「ピートってよぉ、見た目はともかく
 年は、二百歳以上なんだよな。
 ・・・・・・・・・枯れてんじゃねぇか?」



この台詞を起点として、女性たちが賛成票を投じまくりました。
それは、心に生まれた安心感ゆえでしょうか。
なにやら、ピートが血涙流して何かを叫んでいましたが
誰も聞くものはおりませんでした。

こうして、ピートは下着職人となったのです。

この後、雪之丞とピートが血で血を争う戦いを繰り広げたのですが、
全くどうでもいい事ですので、詳しくは書きません。
雪之丞の勝利、とだけ記しておきましょう。










さて、それから百年。
ピートは、すっかり下着作りに魅せられておりました。


「こんにちはー
 ピート君生きてるー?」


明るい声が、光と共に部屋へと入ってきました。
ピートが振り返って見たのは、バイトの愛子でした。
女性下着を作る際、流石に自分でサイズを測るわけにもいかず
しかも自己申告では嘘が混じる事が多分にあったため、
女性バイトを雇うことにしたのです。


「ああ、死んでませんよー・・・・・」


生存を証明する為の声を返します。
しかし、その声は生きているというよりは
まだ死ねてない事を示しているような響きを持っていました。


「・・・・・・また徹夜してたの?
 そこまで根をつめなくてもいいと思うんだけど。
 たかが下着なんだしさー」

「何を言うんですかっ!」



勢いよくピートが立ち上がり
先程までの憔悴ぶりはブラフか、と問い質したくなるくらい
元気一杯に、身振り手振りを加えつつ叫びまくります。



「見えないからこそ力を入れるんです!
 股間や臀部!女性であれば胸部も含め!
 人間の体における急所を優しく守る下着たち!
 ソレを作っている以上、中途半端はいけないんです!
 秘してこそ華という言葉もあるでしょう!」



先程まで作っていた黒いビキニパンツを強く握り締めながら、熱く語るピート。
パンツには魔神のエンブレムが刺繍されています。
確かにそういう言葉はあるのですが、意味はまったく違います。
愛子は呆れた風に彼の奇行を眺めやり、ぱんぱんと手を叩いて



「はいはい、わかったから。
 たかが、なんてて言ったのは私が悪かったわよ。
 だから、とっととお仕事始めましょう。」



その言葉を聞いて、ピートも我に返りました。
忙しいというほどではないにせよ、
いつまでも暴走を続けていては、仕事が終わりません。
もうすぐ学校の方で身体測定が行われるためか、ブラの注文がいつもよりも多いのです。
初めてつけるお子様も結構な数いることでしょう。

女の子は大変だなぁ、と口に出したらセクハラ気味な台詞を考えつつ
ピートはお仕事に精を出し始めるのでした。










宵を過ぎた辺りから、少しずつ天候は悪くなっていきました。
まだ、降り始めてはいませんが、空はどんよりとくもっています。
何かが起こりそうな雰囲気が、上空から降り注ぐかのようです。

本日の仕事も終え、愛子も帰った一室で
再びピートは下着作りに取り掛かっていました。
その下着は、やはり真っ黒なビキニパンツです。
そのとなりには、女性用のショーツとブラがあり
どちらも完成は間近のようです。



「ふっふっふ、もうすぐ完成ですよ!
 究極のパンツが!」



一体、それはどんなのでしょうか。
黒ビキニという時点で、需要が少なそうなのですが。
しかし、下着の裁縫をしつつ笑っている美形というのも凄い光景です。



「股間にジャストフィットするように作られたこのパンツ!
 素材は伸縮性抜群な為、成長しても膨張しても
 くたびれるような事はありません!」



いつもなら愛子がどつく所ですが、残念ながら彼女は此処におりません。
そのため、ノンブレーキフルスロットル。
暴走ピートは叫びと共に、人外なスピードで手を動かします。

先に完成したのは、女性用の下着でした。
感涙にむせびそうな己を御しつつ、男性用の下着へと手を伸ばします。
こちらも、あと少しで完成です。
堪えきれぬ涙で頬を濡らしながら、最後の一針を下着にいれました。
堪えきれぬ言葉が、ピートの口から滑り出します。



「他の人と同じようなパンツでは役者不足です!
 下着であろうとて、いや下着であるからこそ
 僕に負けないくらいの美しさを兼ね備えるべき!
 この僕に相応しいパンツが今!此処に!大・降・臨!」





――――――――その言葉を吐いた瞬間



雷光がピートの家屋へと叩きつけられました。
周囲に轟いた雷鳴はあたかも


『美形ぶってんじゃねーぞコラ!!!』


という、もてない野郎どもの絶叫であるかのようです。










雷光の一撃を受けた家屋。
火災が生じなかったのは、幸いといえるでしょう。

しかし、ピートがいた部屋は瓦礫まみれで、
すぐ先も見えぬほどの粉塵がたちこめています。
一変した部屋の中で、
瓦礫の直撃を受け、倒れていたピートが跳ね起きました。


「・・・・・・はっ!パンツは!」


アフロ気味になった髪形を気にもせず、
いきなりパンツの心配をするとは、見上げた心意気です。
流石は、パンツ職人といった所ですね。
誰もいない、という事は、倒れていた時間はそう長くは無かったのでしょう
あたかも靄のように、辺りが塵で覆われています。

その靄を切り裂くように、
いいえ、叩き割るように、飛び出てきた人影が――――――――











「瘴気百倍、アシュパンマーン!!!」









ウェーブのかかった長髪からのぞいている二本の角
均整のとれまくったむきむきマッチョ
目を逸らしたい股間の膨らみ

背ではマントが風にたなびいてます。
顔は鬼を模した仮面に隠されてます。
身に付けているのはたった三つだけ。
仮面!マント!!ビキニパンツ!!!
ある意味、三種の神器です。だれか通報をお願いします。

両手で拳を形作り、腰に当てたポーズでグラインド。
自身の名前を口にしてからは、何も発そうとはしてません
その口元には、ニヒルな笑みが浮かんだままです。



いきなり現れた視覚公害に抗する術も無く



「・・・・・・ふぅっ」



あっさり、ピートは夢の世界に旅立ったのでした。









「む、風邪か?
 最近、流行っているらしいからな」



言葉としてはおかしい事を承知で言いますが、間違いなく違います。
自分の存在に対する自覚の欠片も無く、
アシュパンマンは倒れたピーとの介抱を始めました。
よっ、と持ち上げた彼の背後から、突然、女性の声が聞こえました。



「アシュ様、どうなさったのですか」



声と共にやって来たのは、顔に隈取をした女性でした。
彼女もマントと、蜂を模した仮面をつけており
その身を包んでいるのは女性下着のみです。
マッチョダンディの黒いビキニパンツとは対照的に、
目に眩しいくらいに、白い下着です。
はちきれんばかりの姿態(主にちちしりふともも)を
マントで恥かしそうに隠そうとしている様も劣情を刺激します。
隠しきれないからこそ、余計に可愛さはアップなのです。



「ああ、ベスパンナ。
 なにやら、私達の創造主が倒れてしまった。
 かなり根をつめてたので、恐らくは風邪だと思うのだが」

「・・・・・・たぶん違うと思います。
 ええと・・・いきなり出てきたのでびっくりしたのでは」



溜息をつきながらの呟きです。
べスパンナと呼ばれた女性の方は、まだしも常識を兼ね備えているようです。
はっきりと口にしなかったのは優しさ故でしょうか。
それとも、言っても通じないだろうという諦め故でしょうか。
後者のほうが、可能性は高そうです。



「おお、確かにその可能性も考えられるな。
 この世界では精霊など珍しくないとはいえ、
 作ったばかりの物から現れては、驚きもするだろう」



納得言った、とアシュパンマンが頷いてます。
そう、彼らは単なる変態ではなく精霊でした。
百年間にもわたるピートの下着への思い入れ、それが奇跡を起こしたのです。





時の経過を必要とせずに精霊が生まれるという奇跡を!

自己愛と瘴気だけが友達なアシュパンマン創造という奇跡を!





ピートが目覚めた時、己のやらかした罪の重さに
首を吊りたくなる事は必死でしょう。
いえ、周囲の人たちにボコられるのが先でしょうか。
そんな未来予想図など、脳の隅っこにも存在していないアシュパンマンは
介抱を続けながら、ほがらかにベスパンナに話し掛けます。



「しかしなんだね。
 私たちが出来る仕事というのは何があるだろう?
 この世に生れ落ちたなら、何かせねばならんとは思うのだが
 下着作りの手は足りておるようだし、手伝おうにも邪魔なだけだろう」

「そうですねー。
 他の仕事も割り振られてしまってますし。
 いっそ、正義の味方とかどうでしょう」



ベスパンナとしては、冗談のつもりだったのでしょう。
ところがアシュパンマンは、目を輝かせて



「良い事言ったぞベスパンナ!それでこそマイシスター!
 そう正義の味方だ!悪は何時の世であろうとも現れる!
 たといこの平和な世界であろうとて、
 いつ何時悪の手が忍び寄らんとは限らぬ!
 そやつらの更生に務めようではないか!」



むきょっ、とポーズをとるアシュパンマン。
己の軽はずみな発言を後悔するベスパンナ。

繰り返しになりますが、この世界は平和です。
悪の『あ』の字も無いくらいです。
何せ、自警団の仕事が天災に対する被害対処のみなくらいですから。
そんな世界で悪の手とは・・・・・・
せいぜい、空から降ってくる事を期待するしかないでしょう。

口にしてしまった事は変えられないと諦めたベスパンナが
俯きがちだった視線を上げてみると、
切れた雲間から星空が高らかに――――――――








――――――――その時、宇宙では



「な、何だ今の悪寒は・・・・・・
 いや、んな事は大した事やない!
 新たな星のまだ見ぬねーちゃんが俺を待っとるんやー!!!」



叫びと共に、ヨコシマ星からやって来たヨコシマンは
期待を胸に、眼前に控えた星へと舞い降ります。
その決断を心から後悔するのは、そう遠い未来ではありませんでした。







更にその後で、


「へーん、ヨコシマさはーん!
 戻ってきてくださいよー!」


寂しさに耐えられず
兄貴分のヨコシマンを追ってきたおキヌちゃんが、
半泣きのままで、彼の待つ星へと舞い降りたのでした。
同じく後悔したのは、もう言うまでもないでしょう。










さてさて、いきなり世界の人数が増えちゃいました。
しかも、どいつもこいつも
インパクトという点では一騎当千のツワモノぞろい。

これから、どんなどたばた騒ぎが起きるのか
これから、どんなどたばた騒ぎを起こすのか
それは神のみぞ知る、という所です。




「呼んだかね」

呼んでません