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アジラ

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ぴしり、と
亀裂の入る音

それは、周囲の空気を震わせ、私の心を響かせた



それは棺

無機質で生命を感じさせない
永遠の停滞を意味している
冷たく、固く閉ざされた
解かれる事は無い筈の、棺

しかし今
他ならぬ彼の力により
棺には傷がつけられ
すぐに、その傷は広がってゆく



ぴしり、と
亀裂の走る音



過去が崩れる音
未来を開ける音
そんな風に私には聞こえる

経験が壊れてゆくような感覚
現実から逃避したくなる感覚
自分の根底を揺らがして、己の価値を見失わせる

世界が終わるわけではない
私が消えるわけではない

だが、今までと同じではいられず
だが、変わってしまう事が怖くて

ただ、見つめる事しか出来なかった



ぴしり、と
亀裂の開く音



蜘蛛の巣を思わせていた亀裂
表面を完全に覆っていた亀裂

それが一斉に動き

爆ぜるかの如く
棺は砕け散った

私の目の前で
全ては、一瞬の内に起こり

目をそらす事も無く
目をそらす暇も無く





降り注ぐ欠片の中

一握りの寂しさを感じながら

解放された体を見つめていた








「あー、流石に死ぬかと思った」


「すごいわ~、自力で石化を解くなんて~
 アジラちゃんもそんなに落ち込まないで~」