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タダヨ

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「いい加減にしときなさいよ令子っ!
 私だって我慢の限界ってもんがあるのよ!」

「だって、だって、だってぇ~~~~~」



喧喧轟々と繰り返される叫びじみた声。
夫婦喧嘩は犬も食わないとされるが、さて、親子喧嘩はどうなのか。
残念ながら犬科の少女がいないために聞く事は出来ない。
少なくとも、この場に居る人は皆、一様にうんざりした表情をしているが。



「えっと・・・・・・・・・その・・・・
 美神さんも悪気があってやったわけじゃぁ・・・・・・・たぶん」

「悪気の有無が問題じゃありません!
 反省というものを知らないこのバカ娘には
 此処でちゃんと言っとかないと!」



おキヌが弁解になってない弁解を講じようとしたが、それも一蹴に伏される。
当たり前だろう。悪気が無いからといって、犯罪行為が許される筈ないのだから。
横目でジロリと睨みつけ、おキヌを黙らせた美神美智恵は
再び、その物理的圧力すら持ちそうな眼光を実の娘へと戻した。



「ユニコーンが保護対象だってこと、知らなかったとは言わせないわよ!
 どうせ今度は角の価値に目が眩んだんでしょう!!!」

「だって――――――――――お金が好きなんだもん!!!」



美智恵による説教が始まって一時間と少し。
精神的に追い詰められた美神令子は、やはりというか反省の欠片も無い叫びを放った。
20過ぎの女性に許される発言ではなかろう。










ユニコーン

神話では馬の姿をとる美しい一角獣として語られている。
たしかに、見た目はその通りなのだが
実際の所は、農家の野菜類を荒らしまわる害獣である。
しかし、神話が全て嘘というわけでもなく
その角は万病治癒の力を有しており、また同時に呪いも解く力も在る事から
過去から現在に渡って乱獲され、今や人間界では絶滅危惧種扱いだった。
従って、もし仮に現れることがあっても
特別捕獲許可がない限り、触れることすら許されない



筈なのだが・・・・・・・・・・・



先に書いた通り、ユニコーンの角は治癒の力を持つ。
そのため、角の粉末はかなーりの高価格にて取引されるのだ。
どれくらいかというと、麻薬さえ目じゃないくらいに。
・・・・・・・・・・・・どこぞのGSが放っとかないくらいに。










結果だけ言うと、ユニコーンの捕獲には成功した。
とはいえ、美神令子が角を手に入れられたのではない。
捕獲許可を取ったオカルトGメン、美智恵と西条によるものだ。
正確に言えば、美智恵のもう一人の娘であるひのめの功績だが。
捕まえようとした方は、捕まえられず
捕まえる気が無い方が、捕まえられた。
しかもその二人ともが美智恵の娘。何とも皮肉なものである。


そして、メンバー同士が鉢合わせし――――――――――冒頭へと戻る。












ぐったりと憔悴している美神令子。それを介抱するおキヌ。
美智恵はまだまだまだまだ言い足りなかったのだが
彼女による手続きも必要であるため、途中で話を切り上げた。
よって、残されたのは二人のみ。
後でまた説教されると思うと暗澹たる気持ちになるが
傍より見ているおキヌからすれば、苦笑するより他は無い。
普段、天井天下唯我独尊な彼女がへこんでいる姿というのも見物ではある。
そこで見ているだけでなく、フォローするのがおキヌらしいといえばらしい。

しばらくして落ち込むのも飽きたのか、美神は背を伸ばし
優しい微笑みをくれるおキヌに労いと謝罪の声をかけようとして
――――――――――そこで、ようやく気が付いた。



「あれ、そういえば横島君は何処へ?」

「・・・・・・・・・・・あれ?」



そーいえば、と二人して辺りを見回す。見当たらない。
いや、いないぐらいなら別に気にする事でもない。
ただ、今の彼は催眠暗示をかけられているわけで
つまり、エクトプラズムスーツを着たままなわけで
そして、その性格は男にとって都合のいい女性なわけで
さらに、この場には美智恵以外にも来ている男がいるわけで・・・・・・・・・・

背筋を走る悪寒。こめかみに浮んだ、漫画ちっくに大きな汗。
無言のままに、二人は部屋から飛び出した。何だか解らない焦燥感を胸に。














時を同じくして。
オカルトGメンきってのエリート公務員、西条は一人の少女をナンパしていた。
彼に言わせれば、ナンパとはまた違うのかもしれない。
手持ちぶさたにしていた見知らぬ少女を放っておけず、声を掛けただけだと言い張るだろう。




「そうなんですか、凄いですね西条さんって」

「はは、そんな大した事じゃないよ」



親しげに会話する二人。
その雰囲気からすれば、恋人同士にも見えるだろう。
互いに美男美女ということもあって、二人の姿は絵になっていた。

仕事の現場で出くわした、まさに理想といっていい美少女。
着ている服を見る限り、ユニコーンを惹き付ける乙女として雇われたのだろう。
声を掛けたのは西条にとって、仕事で空いた時間の暇つぶしでもあったのだが
いざ会話をしてみると、これがなかなか話が合った。
ウマが合うというのだろうか、まるで此方をよく知っているかのよう。
言葉の一つ一つに包容力を感じさせ、母性を体現していた振る舞い。
それでいて女性としての魅力をまるで損なわない。



「そうですか、お世辞でも嬉しいです」

「いや、お世辞なんかじゃないさ。
 可愛い子に可愛いというのは、お世辞にあたるのかな?」



悪戯っぽく笑う西条、似た微笑みを返す少女。
兄に甘える妹にも似て、子を甘やかす母にも似て。



「・・・・・・・・・・本当に可愛いって思ってくれてます?」



囁き声でそう言ってから、少女は甘えるように体を近づけた。
確認でもする気なのか、至近距離で西条の瞳を見詰める。
切なげな期待を込めて、西条を見上げる一対の瞳。
おりよく、周囲に人影は無い。

すっと指先が差し出され、少女の顎を上げさせた
西条は薄く目を細め、顔をゆっくりと近付ける。
少女の方も、微笑みと共に目を細め―――――――――――――――









「何をしとるかーーーーーーーーーーっ!!!!!」










間一髪。
唇が触れ合おうとしたその瞬間に、横から飛んで来た鞭が少女を跳ね飛ばした。



「れ、令子ちゃん!?
 いきなり何を――――――――っ!!?」



浮気現場を目撃された男の如くに慌てる西条。
しかし、流石に吹っ飛ばされた少女が気になったのか、
ちゃんとした言い訳もせずに、少女の元へ近付こうとして






「ああっ、美神さんっ!!!
 何かよくわからんけどすんませんっ!!!!!」





ぴしぃっ





音すら立てて、亀裂の入る西条。
彼の視界に入ったのは、先ほどの少女と同じ服を着ている横島の姿だった。
何故だか、美神が彼をしばいている。
それを見ながら、先ほどの少女もバンダナを付けていた事に今更ながら気が付いた。
混乱する頭は状況を理解させてくれない。いや理解したがっていない。
遅れてやって来たおキヌが、痛ましげな視線を向けてきたのが止めだろうか。



最後に、その場へとやって来た美智恵が見たのは
罰の悪そうにしている馬鹿娘と
思いきり苦笑いしているおキヌと
顔を蒼褪めていながら、安堵の息をついている横島と
そして―――――――――真っ白に燃え尽きた西条の姿。

果たして、何があったのか。誰に聞いたところで、口を噤むばかり。
まぁ、仕事は無事に終ったのだからいいか、と気にしないことにした。



以上が、事の顛末である。










甚だ余談では在るが・・・・・・・・・・・



これを境に、西条は横島との会話を避けるようになったのだった。