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メキラ

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逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる



地を蹴り、風を裂き、四肢を繰り
周囲を駆け抜ける
全身を使って、全霊を費やし、全力を以って
私は逃げている

私は逃亡者だ



逃げる私の胸には恐怖と焦燥
追いかけられている事に感じる焦り
そして、捕獲後の仕打ち以上に
『逃げている私』がいなくなる事への恐怖
『捕らえられた私』に変わることへの恐怖
一度でも屈した心で、再び逃げる事ができるのか?
だから、私は逃げ続ける
自分を追う者から、自分の弱さから



しかし永遠の疾走などありえる筈も無く
体力を回復するために、周囲を確認するために
私はついに立ち止まる

首を回して辺りを見渡す
上下、左右、樹木や建物の陰、真後ろ
辺りに人影は見当たらない
思わず、安堵の溜息をつき
再び走り出そうと前を向き



そこに彼がいた
追跡者であり、捕獲者である、彼が



状況を理解するよりも早く、彼が動いた
一瞬腰を落とし、一気に此方へ跳び掛かる

人であり人でしかない彼の動き
人としては最速ともいえる動き

それを見て私も動き始める
逃げる為に、疾る
後ろではなく前へと

私の動きに戸惑ったのか、動きに迷いが生じる彼
しかし、動きが止まる事はなく一瞬にして二人は肉薄する
迷いを振り切り、彼は私へと左手を伸ばす



彼の爪先が、私に触れんとした刹那

背中合わせに、私は彼の背後に居た



彼にとっての完全なる死角
だが、私自身も彼の動きが捉えられない
四肢に力を込めながらも
彼の体を視界に収める為に、首だけを後ろへと回す



振り向いた私が最初に見たものは
此方へと伸びてくる彼の右手だった



どんな速くあろうとも、止まった一瞬の速さはゼロに過ぎず
その瞬間を狙われたなら、一瞬は永遠にも等しい
先に位置を読まれていたなら、なおの事

そのような詮無きことを考えながら
彼の腕が私の体に巻わされるのを感じていた


こうして私は捕らえられた



全身を覆う、清清しさを伴った疲労感
彼の腕から、私へ伝わってくる温もり



『捕らえられた私』は

目を閉じながら

その二つに身を委ねていた







「うーっし、これで全員っと!」

「次の鬼は~、メキラちゃんの番ね~~~」