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恋のナワしかけましょ

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今日も今日とて響き渡るよ、ぷち『破壊の女王』の怒りの声が。



「だーかーらー、ガキ扱いすんなっつってんだろーが!!!」

「がはぁっ!!!!!」



続けて聞えてくるのは破砕音と悲鳴。
潰す薫、潰れる皆本、周囲の皆は知らん顔。
何時も通りの光景ながら、哀れと言えば哀れである。
逆に何度も繰り返してる事を思えば、結局自業自得とも言えるのだが。
当たり前のように傍に居るのは、同じチルドレンの葵と紫穂。
そして、あらあらと頬に手を当てながら笑みを絶やさぬ朧の三人。
運良くというか、この場に局長は居合わせていなかった。
もしも居たならば、高確率で皆本と同じ運命を辿っていただろう。
ぐったりとして気を失った皆本を尻目に、不機嫌そうに薫は零す。



「ったく、頭いいのに学習能力ねーのか」

「確かにちょっとだけデリカシーには欠けるかもね」



言いながら、ちらり、と失神したままの彼に朧は視線を飛ばした。
毎度毎度、いらない事を言ってはチルドレンから折檻を受ける皆本。
薫の念動が主だが、たとえ彼自身の失言が理由であろうとも
返される報復の大きさは、到底見合うものとも思えない。
今回のように、彼が気絶してしまうほどの力に至ってはなおさらだ。
さすがにやり過ぎたことは、薫自身も解ってはいるのだろう。
先程から横目で、壁のオブジェと化した皆本をちらちらと見詰めている。
そんな自分を気付かれたくないのか、見ては反らしを繰り返しているが。
だから、朧はちょっとした忠告をしてあげる事にした。
皆本の健康の為にも、薫の想いの為にも。



「でもね、余りやり過ぎるのもよくないわよ。
 皆本さんだって、不死身ってわけじゃないんだから。
 それに、傷付けたい訳でもないんでしょう?
 少しは手加減くらい出来た方がいいかもね」



朧とて、チルドレン達の能力調製が難しい事は知っている。
あくまで、我慢のきっかけにでもなれば、と思って口にした発言だった。
それを聞いて腕組みをし、考え込むような顔をする薫。
自然と葵や紫穂も加わって、簡単な話し合いの場が作られる。
あーだこーだと三人の様子を、朧は微笑ましく見詰めていた。
なお、皆本が助け出されたのは、それより結構な時間が経過してからである。














皆本の聡明さを知る人物は、彼が同じ失敗を繰り返す事に首を傾げる。
ひょっとして、毎回壁画になる度に頭とか打ってて
部分的な記憶喪失にでもなってるのだろうか、と心配される程に。
まぁ、つまり何が言いたいのかと言うと
薫と二人きりの時に、彼はまたやってしまったわけで。



「はぁ。そーいう所は、本当にガキだな」

「みーなーもーとー・・・・・・・・
 何べん言わす気だ! ガキってゆーな!!!!」



薫の叫びが聞えた瞬間、皆本は全身の筋肉を硬直させる。
少しでも被害を少なくする為に覚えた生活の知恵である。
彼にも学習能力はちゃんとあるのだ、間違えた方向に使っている気がするが。
だが、皆本の予想に反して、何時もの攻撃は飛んでこない。
何時もならば怒りの視線で睨み付けてくる薫は、何故だか目を瞑っていた。
ブツブツと何かを呟いている姿からは、精神集中しているようにも見える。



「・・・・・・・・・・?」



一瞬後、皆本の気が反れた時にそれは来た。
だが、来たのは予想していたような圧力ではなく
どちらかというと、こう、全身を撫で回されているような感覚。
その動きは言うなれば、セクハラする親父の如し。
不可視の手が肌を這い回る不快感に皆本はのた打ち回る。



「のごぁあっぁああぁぁっ!?」

「ありゃ? 弱過ぎたか。
 んじゃもーちっと強めに・・・・・・・・ていっ!」



首を傾げた薫が手を下ろすと、その嫌過ぎる感触は消えた。
しかし、自由になった皆本が立ち上がるよりも早く
再度集中した薫が、新たな念動力で彼を束縛する。
すると新しい感覚、もとい感触が彼の肉体を襲った。



「ぐぉぉぉぁぉぁぁぁぉぁっ!!?」



それは文字通りの束縛。一言で言えば、縄。
全身を適度な感じで締め付ける、細長く収束された力場。
恐らく金属の塊でも切断する力さえ有するそれは
しかし、皆本の肉体を拘束するに留めている。
かといって、締め付ける力が弱いわけでもなく
不自然な体勢になった皆本の喉から、軽い苦鳴が漏れた。
瞬間、薫の眼が鷹のように鋭くなったのは気のせいだと思いたい。
もしも本物の縄であれば、どんな縛られ方をされてるか。
精神衛生上のため、彼は考えない事にした。懸命である。



「よしっ、成功!」

「何がだぁっ!!!!」



ガッツポーズを取る薫に向けて、倒れたまま叫ぶ皆本。
可愛らしい、達成感に満ちた笑みを浮べる薫を
胡乱な瞳の皆本は、下から見詰めながら



「皆本、パンチラを眺める趣味があったのか!
 やっぱアングルは下からだよな!!!」

「同意を求めるなっ!!!!
 って違うそーじゃない、これは一体何なんだっ!?」

「これって・・・・・・・
 ああ、ちょっとコントロールの練習をさ」

「コントロール?」



会話の邪魔と思ったか、彼を拘束していた力場が音も無く消え失せる。
ようやく介抱された皆本は、肩や手を回して身体をほぐしながら



「・・・・・・努力するなとは言わないけど。
 僕の我侭を言わせてくれるなら、無理はしないで欲しいんだが」

「うん、そこは安心してくれ皆本。
 あんま無茶しすぎたら本末転倒だから、ちゃんと気を付けてるよ。
 ほら・・・・・いつも皆本を押し潰したりしてるだろ?
 あばら折ったりする時もあるし、やり過ぎてっかな、とは思ってたんだよ。
 そんで考えた私は、力を上手く調節する練習を始めた訳だ。
 皆本への手加減にも繋がって、一石二鳥なんじゃねーか、と」

「我慢するという選択肢は無いのか其処で」



眼鏡を直しながら、皆本はぼやいた。
しかし、強く言い返すことも出来ない。
彼の失言も原因の一つではあるのだから。
それに、薫が自分から力をコントロールしようと考えた事は嬉しくもある。
折角やる気になっているのだから、水を差すのもどうかと思うし
端々のフォローは此方がしてやればいいことだ。
影でこっそり練習されるくらいなら、一緒に居て見てやった方がいいだろう。
瞬時に其処まで考えた皆本は苦笑して



「しかし、そう言われると反論が出来ないな。
 それじゃ、僕も出来るだけ協力しようか」



でも暴走したりはしないでくれよ、と
皆本は薫に向けて軽く笑いかけた。
つい先程、床を転がっていた為だろう。
胸元が心なしかはだけているのもポイント高し。
台詞のせいか、格好のせいか。対峙する薫はほんのりと頬を赤らめ



「えへへ、何か照れるな。
 いやー、こっちから話を持ちかけるつもりだったんだけど
 皆本の方からそう言ってくれると助かるぜ。
 何せ、すっげーイイ方法を思いついたからさ」

「いい方法?」

「うん。考えたのは紫穂なんだけど」

「・・・・・・・・紫穂?」



・・・・・・・・・・何故だろう。
この時、皆本は嫌な予感という言葉の意味を
頭などではなく身体で実感していた。即ち、悪寒。




「コントロールは強すぎず、けれど弱すぎず。
 結局、そこでものを言うのは集中力なんだよな。
 でも、何かにずっと集中してるのって苦手だし。
 集中し過ぎてると、押し込められた力が逆に暴走するしな。
 その方法について悩んでた時、紫穂からコレを渡されてさ」



鞄から、取り出されたのは一冊の書物。
絵と文から成る、一般には漫画と呼ばれる本。
それには、日本語のタイトルが付いていた。










『GS美神極楽大作戦』










「この中に出てくるにーちゃんが凄くてなー。
 あたしと実の兄弟じゃないかと思ったね、マジで。
 で、そのにーちゃんがやってた事でビビッと来たんだよ。
 いきなり力をコントロールしようとするんじゃなくて
 まずは単純に集中することだけを先にしようってな。
 集中する、つまりは妄想だ! ザッツエロース!
 具体的にはだな、皆本の緊縛姿とかを・・・・・・あ、皆本!?
 涙をちょちょぎらせながら何処に行くんだみなもとー!!!」

「自由と平穏に満ちた明日という日だーーーーーっ!!!」



皆本は逃げ出した。前言撤回もいい所だが、逃げる以外にどうしろと。
滂沱の涙によって作られた虹が、ほのぼのと優しげな陽光に煌いていた。










同時刻。朧は秘書業務に勤しんでいた。
多量の書類をファイルに纏めるなどして整理しながら
ふと数日前に、自分が薫に告げた言葉を思い返し



「ふふ、少しは二人の仲も良くなったかしら?」



魅力的な微笑みを浮べて、独り言を呟く。
其処には欠片さえも悪意は無く、慈愛にすら満ちていた。
書類からそっと顔を上げ、視線を遠くに投げ掛ける。
瞳の先に映るのは、ノーマルとエスパーが仲良く暮らす世界。
とりわけ一人の男性と三人の少女による、騒がしくも幸せな時間を幻視して
優しげな微笑みを浮べてから、朧は再び仕事へと取り掛かった。










――――――――余談ではあるが

この日を境に、皆本が怪我をする回数は激減した。
逆に胃薬の量は随分と増えたけどなー、とは賢木医師の弁である。



「皆本ーーーっ! もっと練習させろーーーーーっ!!!」

「だったらその親父顔を止めんかーーーーーっ!!!」

「よいではないかよいではないかーっ!!!!」

「いいわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」