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本当の笑顔

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彼女を守れなかった自分が情けなくて

彼女に守られた自分が格好悪くて

―――――――――それに何より、悔しくて



ずっと我慢してた悲しみと一緒に

ただ、泣く事しか出来なかった










最初、僕は一人きりで其処を回ってた。
東京デジャヴーランドっていう遊園地。
暇さえ潰せればそれで良かったんだ。無駄な時間さえ過ごせれば、それで。
あるいは、何もしないで居れば、何も感じないで居れば
時間が過ぎないなんて、都合のいい妄想を抱いてたのかもしれないけど。

勿論の事、そんな気持ちで遊んでも、楽しいはずなんてなくて。
幾つかのアトラクションに乗ってから、もう十分だって思った。
一人きりなのにわざわざ無理してる気がして、息が詰まりそうだったから
苛立ちと諦観交じりに、VIPチケットを捨てようとして
そんなときに、僕と彼女は出会ったんだ。




「て、手足のバランスが急に変わったから
 った~~~~~・・・・・・・・・・ん?」



出会い頭の下着姿は、ちょっと刺激的過ぎたけど・・・・・・・・・・・・










彼女は強情でお節介だった。
その上、遊ぶことに労力を惜しまなかった。
VIPチケットを挙げたら別れる気だった僕も、何となく付き合わされて
気付いてみれば、遊園地にあるアトラクションを全部制覇してた。
一人で居た間が酷く色褪せる、本当に楽しい時間。
その楽しさは、間違いなく本物だった。

でも・・・・・・・・・・・



「やっぱり――――――――――なんか違う。
 今、ここで私と一緒に居る真友くんは、本当の真友くんじゃないんだね」



心に残る小さなしこり。微かな澱み。
誤魔化したかったそれを、何処か鋭い彼女は気付く。
慰めの言葉を続ける彼女と、言い訳をしようとする僕。
笑いたいのに、上手く笑えない。それがもどかしくて。
伝えたいのに、ちゃんと伝わらない。それが口惜しくて。

だから僕は、さっきと逆に別れようととする彼女を引きとめた。
もう少しだけ楽しい時間を一緒に過ごしたくて、最後のアトラクションに誘う。
それはオープン前の、誰も知らないアトラクション。
一緒に居たいのと同じくらい、詰まんない顔をさせた事が胸に残ってた。
その代わりってわけじゃないけど、彼女には笑ってて欲しかった。
アトラクションで楽しんでた時みたいな笑顔を浮べて欲しかった。










結果から言えば、あるいは良かったのかもしれないけれど
それでも、やっぱり軽率な行動だったんだと思う。

入ってすぐ、彼女は隊長を崩したようにへたり込んだ。
それに続いて、アトラクションが一時停止。暗闇に包まれる周囲。
まだ完成してないものに勝手に入ったんだから、大人に見つかるわけにもいかない。
こそこそと隠れながら、誘ってしまった事を申し訳なく感じるのと共に
彼女を何とか安心させたくて、彼女と手を差し出した。
握り返された時、あるいは僕の方が勇気付けられたのかもしれないけれど。

そうして動き回るうちに、ちょっと開けた所に出た。
どうにか外に出るため、二人して川に沿って順路を歩く。
手持ち無沙汰なせいか、あるいは申し訳なさのせいか
隣を歩く彼女に、僕は抱いていた重しを打ち明けた。



両親の離婚。弁護士事務所での調停。
遊園地で遊ばされる一人息子。
何だか、安っぽいドラマみたいだ。
けれど、登場人物が自分となると笑う気にもなれない。



口にする間、ずっと小さく胸が軋んでたけど
打ち明けられた事で、ちょっとはマシな微笑みが浮べられたと思う。
でも、彼女にとってはまだ不十分だったようで。
軽く不満を口にしようとし―――――――――――突然、僕の腕を引っ張った。

そして、僕の代わりに幽霊に捕まえられ、川へと引き摺り込まれる彼女。
瞬間の出来事に対処も出来なかった僕は、呆然と其処に立ち竦んでから



――――――――――何も考えずに、川へと飛び込んだ。















バツが悪い。何だか、自分が馬鹿みたいで。
そんな風に感じる自分が、もっと馬鹿みたいで。

花火の音を聞きながら、彼女の後ろを付いていく。
さっきまでは、同じくらいの背だった彼女。
今では仰ぐようにしないと視線も合わない。
――――――――――でも、これが本当の彼女。
少しだけ、僕と一緒に居た時の彼女の気持ちが解った気がした。

彼女は妖怪で、僕よりも年上だった。
ウソつきな彼女は、僕の嘘なんてすぐに見抜けてた。
でも、嘘は皆、涙と一緒に流れちゃって
此処に居るのは、本当の姿になった彼女と
笑顔以外を顔に浮べてる、いい子じゃない僕。

最後の最後のアトラクションとして、風船を奢って貰う。
それと一緒に、自分でも色違いのやつを買った。
問い掛けるような彼女の視線から目を反らすようにして
ほとんど一方的な約束を口にした。
約束の印は、風船の交換。それが、お別れの合図。










一人で聞く花火の音は、少しだけ大きい気がした。
指に括られた風船を見詰めながら、ぼんやりと思う。



彼女を助けられなかった、情けない僕

彼女に助けられるだけだった、格好悪い僕

結局―――――――彼女に無理やりな笑顔しか見せられなかった、弱い僕





急いだりせずに、けれど歩みは止めずに。
指に括られた約束を見詰めながら、ぼんやりと想う。



ほとんど一方的に決めた再会の約束

また今度、一緒に遊ぼうって約束

それは叶わないのかもしれないけれど









その時にはきっと、本当の笑顔を彼女に