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告白

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・・・・・・困りました。

いえ、現在進行形で困ってます。
私は黙り続けるべきなのでしょうか。
それとも、背を押してあげるべきなのでしょうか。
迷い悩めるこの方に対し、如何なる対処が適切なのでしょう?
嗚呼・・・・・本当に困りました。
一体どうする事が最善なのでしょうか。



あ、名乗りが遅れましたね。失礼しました。
私、人工幽霊一号と申します
以後お見知りおきを。










事の起こりは数週間前より。
今日に至るまで、それを放置しておりましたが
そろそろ、私としても無視するのが辛くなってきたため
意を決して、ソファに座っている横島さんに尋ねてみました。



『一体どうなさったのですか?』



そう問い掛けた私の声は、
自分で思っていた以上に気遣う響きを伴っていました。
それ程に、ここ最近の彼の行動はおかしなものだったのです。

女性に飛びかからず
女性をナンパせず
女性を襲わず

すなわち、セクハラの悉くをしなくなっていたのですから!
・・・・・この状態こそが異常なのだと思うと
普段のはっちゃけ具合に、何かと哀しくなりますが。
まぁ、それはさておき。
かように彼の行動はおかしなものとなっているのです。
とはいえ、オーナーへのセクハラまで無くなった訳ではない為、
偽者などの可能性はありえなそうです。
ただ、それさえも回数が少なくなっており
諦める速さも、徐々に増しておりました。
事務所の皆さんの心配も、日々毎に大きくなっています。
オーナーも、最初の頃はこの状況を歓迎していたのですが、
最近では不安や心配を隠し切れないご様子です。





私の言葉がイマイチ理解できなかったのか
彼は、きょとん、とした顔で虚空に目をむけています。
おかしな行動をとっている自覚がなかったのかもしれません。
ふむ、となると、こちらから呼び水を掛けてみる必要がありそうですね。
無意識的に忘れているなら、思い出すきっかけになるやもしれません。
・・・・・・変な物でも食べたのでしょうか?



『拾い食いはいけないと思います』

「おのれは世話焼きのメイドさんか。
 つーか、食ってねぇ」



違いましたか。
普段の欠食児童ぶりを見てると、やりかねないとも思えるのですが。
では他に考えられる原因となると、
―――――女性へのセクハラ行為消滅
―――――オーナーへのちょっかい減少
―――――シロさんやタマモさんと最近仲が良好・・・・・・・ま、まさか!!?



『横島さん』

「ん?」

『ちゃんと責任は取ってあげてください』

「・・・・・・・・は?」



くっ!いつのまに手をつけておられたのか!?
流石は横島さんというところでしょうか。
煩悩が絡むと、そこらの神魔顔負けですね。
しかし、男女の関係とは実に予測のつかぬもの。
まさか・・・・・・



『私はちゃんと応援しますから。
 何、三またでも本人達がいいのなら問題などありません。
 愛の前では、ヒトの作った法律などぺぺぺのぺいです』

「ちょっと待てい!
 三またって何やコラッ!!
 おまいの妄想超特急は何処をつっ走っとる!!?」

『え、シロさんやタマモさんと夜な夜なエッチなことをなさっているのでは?
 そのせいで、最近他の女性への興味が薄れたとか』

「どーしてそーいう結論に達するんじゃぁっ!!!!」



むぅ、これも違いましたか。
ロリコンやないー、とか必死で叫んでいる様子を見ると
少なくとも、嘘はついていないようです。
良くも悪くも、彼は嘘をつけない性格ですし。
考えてもみれば、もし私の予想が正しい場合、
おキヌさんや私はともかく
オーナーにばれないはずがありませんね。
しかし、そのオーナーでさえも理由が解らないとなると
状況は、考えていた以上に深刻なようです。
悩み続ける私に、激昂した彼は言葉を投げつけてきました。



「大体だなっ!
 俺が女に飛び掛ったり迫ったりセクハラしたりせんのはそんなに変かっ!?
 『ぼかーもーぼかーもー!』とか!
 『ずっと前から愛してました!』とか!
 美人のねーちゃん前にして、そんな台詞を言わん俺は変なんかっ!!?」

『はっきり言わせていただきますと』



強調の為、溜めを作って
彼の顔が引き攣るのを確認した後で





『変です』





どきっぱり。
一撃必殺だったようで、ソファに倒れこみ、しくしくと泣いています。
今までの行動を顧みれば、変なことなど一目瞭然でしょうに。
それに何より、



『原因が解らないので変と感じるのです。
 女性に対する行動が変わったのは、何か理由があったのではありませんか?
 それは、誰かのためなのですか?』



私の問いに、横島さんは居住まいを正しました。
視線は部屋の天井あたりに向けられています。
無言の圧力を強く感じながら、
この事務所では、恐らく私以外の誰も聞かない事を口にしました。



『ルシオラさんが、理由なのですか?』










はぁぁぁぁ~~~~



横島さんからの返答は、心底呆れたような溜息でした。
傷ついたわけではなさそうなので、少し安心しましたが
何故そんな吐息をつくのか、理解できません。
ぐったりとソファにその身を寄せて、
いかにも疲れましたとでも言いたげな様子です。



「あのなー、もう気にしてないってわけじゃないけど
 俺の行動原理全てにルシオラを持ってこられても困るぞ。
 生きてんだから、色々考えたり、感じたり、想ったりもするだろ。
 それが何もかんも全部、アイツ中心なんじゃ、
 俺の人生押し付けてるみたいで、正直気分良くないって。
 ま、無意識にそうしてる事もあるかもしれんけど、
 今は、ちゃんと自分のためにやってんだからさ」



さばさばと答える彼からは無理をしている感じは受けません。
どうやら私達の心配は杞憂だったようです。
心配したことに感謝を述べる彼の姿を見ていると
恥かしいような、暖かいような気分が感じられます。
私に表情があったならば、きっと苦笑を浮かべている事でしょう。
立ち直れていなかったのは、どうやらこちらの方だったようですね。
・・・・・・あれ?
でも、そうなると、



『じゃぁ、一体何故なのです?
 女性にアプローチをしなくなったのは?』



先程の発言からすると、自覚の上での行動だったようです。
私の短い問いかけに、失言に気付いたか、彼は言葉に詰まりました。
ほほう、最初からシラを切るつもりだったのですか。
知らないうちに、嘘が上手くなったようですね。
危うく騙される所でしたよ、ええ。



『やはりシロさんやタマモさんと深い仲に・・・・・・・・』

「だから違うっ!!!!!」



否定をしますが、追求の手は緩めません。
おキヌさんですか?
小鳩さんですか?
冥子さんですか?
ひのめさ・・・・・暴れないで下さい。流石に冗談ですから。





執拗な詰問の末に
横島さんは観念したのか
あー、うー、と唸りながら
小声でぼそぼそと呟きました。



「『好きなのか』って考えるのは止めにしたんだ」



ふむ、失恋でもされたのでしょうか。
いえ、失恋というよりは想う事を諦められたのでしょうか。
しかし、横島さんの言葉はこう続きました。



「だって無駄だからな。
 もう、答えなんか出てんだ。
 後はちゃんと言葉にするだけで。
 うん、要するに自覚したってだけなんだ。
 あー、だからさ・・・・・・・・」










「『美神さんの事、好きなんだな』ってさ」










かしかし、と頭を掻きつつ
首筋さえも真っ赤に染めて
視線はきょろきょろ忙しなく

煩悩少年としては、余りにらしくない行動で
恋する少年としては、余りにらしい行動で
変といえば、この上も無く変なのに
その姿が何よりも誰よりも好ましく
ふと生じた暖かく安らいだ感情に任せ
私は、ほんの少しだけ声に出して笑ってしまいました。
彼は憮然とした顔で黙り込んでしまいましたが
そんな姿も、拗ねた少年を思わせる微笑ましさがあります。
私に表情があったならば、きっと微笑を浮かべている事でしょう。

ぺしぺし、と軽く頬を叩いている横島さん。
まだ恥かしさが抜けきらないのでしょうか。
先程の姿と纏めて、保存は終了済みです。
いつの日か、皆さんに公開する事を心に決めつつ
唸り続ける彼にアドバイスを試みました。
私は人ではありませんが、一応の年長者として。



『それなら告白すればいいではありませんか』

「ば、ばかたれ!
 簡単にそれができりゃぁ、苦労はせんのじゃ!」



顔を真っ赤に怒鳴る彼の姿は、なかなかにレアものです。
そーいうものなのでしょうか?
むぅ、確かにそうかもしれません。
告白できないが故に
覗きやら、下着ドロやら
遠まわしにも程があるアプローチをしてたわけですから。
ずっと一緒だった時間を考えると
今更、という気持ちも消えないでしょうし。

まぁ、それも時間が解決してくれる問題でしょう。
ルシオラさんには、少々申し訳なさも感じますが
やはり、横島さんには幸せになって欲しいのが本音です。
聞いた所によると、
ルシオラさんは横島さんの子供に転生する可能性が高いとのコト。
近いのか遠いのかは解りませんが、
将来、幸せな家族となれる事を願うばかりです。










しかし・・・・・・・困りましたね。



話の内容が気になったのでしょう。
先程から、扉の前で耳をそばだてて、
その姿勢のままに、全てを聞いていた女性。
聞いた今では、耳から首から指先まで
真っ赤に染め上げている、その女性。
ぽっぽ、と湯気が立ち昇りそうです。

入室を促すべきでしょうか?
黙秘を続けるべきでしょうか?
立ち尽くしている我がオーナーに対し、
私は一体どんな行動をとればいいのでしょう?



誰か、教えていただけませんか?