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無意識

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世界は――――――――――無色だった。



それが最初の認識。
そうとしか受け取れない空虚。
あやふやで確かではないカタチ。
ただ色が無いという意味では無く。
濃淡に彩られた世界で、色の違いだけが理解出来ず。

様々な色に染められた空間。
種々の彩に変わってゆく時間。
だが自分の中に入り込んだ瞬間
例外無く、全てが色褪せてしまう世界。

世界そのものを描く色。
一つ一つに意味が在り
一つ一つに価値が在る
だが、その悉くを平板に捉えるしかなく。
だが、その遍くをとしか感じられず。
ならば、意味など無く、価値など無い。

此処に在る世界は、確かに美しい。
光も、音も、自然も、生命も。
何処が美しいのかは問題ではなく
確かに在るからこそ、美しいのだろう。



――――――嗚呼

それでもなお

その瞳に映る全てが

無色に思えてならない―――――――――――










―――――――何時からだったろうか



無色なのは世界なのではなく
自分こそ――――――無色なのだと知ったのは。

世界は透明だった。
見る者の色をただその目に映すだけ。
だから、世界が無色に映るというならば
それは、自身の色こそが無いのと同義。

そうしてようやく、己が身を知る。
この色鮮やかな美しき世界にとって、
無色なる自分は、まさに異色なのだと。

煌びやかな世界。
心躍り、胸ときめく風景。
柔らかな平穏に包まれた自然。
四季折々の風情に包まれた情景。
その全てから解離してしまった自分。

無力さに震えながら、自分の欠片を集めだす。
一人きり凍えながら、絶望への道を歩き出す。



――――――それでも

救いの道が、満足な結末が

きっと在ると信じて

無色な自分の中

他には何も出来ず

ただ、信じるだけで――――――――――










無為なる日々。

世界と自分。
色彩と無色。
異色の意識。

苛み続けるジレンマ。
消える事無く、時をおうごとに鮮明にすらなる。
耐え続け、知り続け、在り続け

そして、全てを思い出せた時
新たに世界を取り戻せた時
完全に自身を認識した時



――――――――――彼女にとって、世界は終る。










夜の底で、紡がれる唄。

今までの比ではない無力さと淋しさと
救い難いまでの孤独感を抱き締めながら
抗い難いまでの罪悪感を噛み締めながら

誰の為にか
何の為にか
己が為にか

頬を伝う一筋の涙。
次第に雫となるそれは
重力の腕に捕われ、虚空へと落ち
しかし地に触れる事も無く消えてゆく。
闇の中へと音も無く、最初から無かったかのように。





この子の可愛さ限り無い
山では木の数 萱の数

尾花かるかや萩ききょう
七草千草の数よりも
大事なこの子がねんねする

星の数よりまだ可愛





その唄は、誰にも聞かれる事は無い。
その涙は、誰にも見られる事は無い。

この時、この場にしか無い唄。
子供不在の子守唄。
孤独な声は、か細く夜気を震わせる。
寂しさを紛らわす役にも立たず
むしろ逆に深めてさえおり。
それでも、唄は続く。
彼女に残されたモノは
もう、それしか無いから。





ねんねやねんねやおねんねやあ
ねんねんころりや・・・・・・・





濃紺の空を見上げながら、子守唄は続く。
あたかも、泣き声であるかのように。
あるいは、鎮魂歌であるかのように。
夜闇の中を、何時までも、何時までも・・・・・・・・








煩悩少年と出会い、
長き孤独の夢より覚め、
新しき彼女の人生が始まる。

それはまだ、先のお話――――――――――