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はげ

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「あの・・・・・・・・・大丈夫ですか、先生?
 またまたまたまた食事をまともに取られてないようですが」

「はははははははははははははははだいじょ」ばったり

「またですかせんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?」





これで通算五回目の餓死(寸前)
いい加減にピートも慣れ始めていたが、叫ぶあたりがまだまだである。











この時のピートはかなり困っていた。

意志を持った野菜どもは自由を求めて旅立ってしまい、もはや教会には残っていなかった。
おキヌや小鳩、魔鈴といった料理を作れる面々には
もう一度頼ってしまっていたので、二度も三度もとなると頼み辛い。
かといって、金銭の無心をするにしても
ピートが思いつくのは、美神を筆頭とする決して金を借りてはならない人物ばかり。
そうでなければ、神父と似たり寄ったりの者しか思い当たらない。皆びんぼが悪いんや。
ううむ、と首を捻るピート。その後ろには、少しずつ魂が抜けかけている神父。
しばし考えた後、苦虫を噛み砕いた表情で電話へと向けて歩き出す。
昔ながらの電話機を前に、深呼吸と懺悔とを数セット。
特定の番号をダイヤルし、遅まきながらも覚悟を決める。
そして電話が通じると、踏ん切りつける意味合いも込めて勢いよく喋りだした。



「あ、もしもし! 六道様の御宅ですか!」



神父が起きていたなら、間違いなく彼を止めたろう。
だが、その抑止力は現在、レテの河にて死神と対談中。
渡し賃を値切られそうになった経験を愚痴る死神に
冷や汗を滝のように流していたのは彼だけの秘密である。










「いいわよ~、私と唐巣君との仲じゃない~~~~」



思いのほか、あっさりと話はまとまった。
さすが六道家というか、即日、神父は病院へと運ばれ
すぐさま栄養補給、そして一日と掛からず体調は元に戻された。
更に気付いてみれば、神父の懐にはそれなりのお金。
お恵みなどではなく、ちゃんとした報酬として。



「代わりに~、うちの臨時講師をして欲しいんだけど~~~
 ま・さ・か、嫌だなんて言わないわよね~~~~~」



つまりは前払い。
神父の立場で拒否できるわけもなく
病院のベッドに寝たままで、神父は重過ぎる金に涙していた。
自業自得とはいえ、その隣に座って同様に泣く弟子共々
神への信仰心を失わぬ事を願うばかりである。










こうして、六道除学院にて教師を受け持つ事になった神父。
一応は外部の人間、しかも男という事で主な担当は増設された小学部となった。
最初の頃は、仕方なしにという感が否めなかった彼だったが
根が真面目なせいか、続けるうちにやりがいが湧き始めた。
過去においては美神親子、現在はピートの師をしている点でも
人に教えるという立場が向いていたのだろう。
また生徒達の方も、彼の存在を受け入れていた。
何せ、金銭感覚生活能力が欠如しているにもかかわらず
あの美神が師事していたほどの腕前なのだ。
更に、この女学院においては美神令子はアイドル的存在。
その師である彼が好意を以って受け入れられたのは、自然の成り行きとも言えるだろう。
いつの間にやら『神父先生』などという渾名で親しまれていた。
そんな神父は、今日も使命感に燃えている。



「今度こそはまともなGSにっ! 主に性格面っ!!!!」



見る人が見れば、その姿は殉教者による懺悔にも見えたかもしれない。














・・・・・・・・・・・・だが

神父はあくまで神父。教師ではない。
よって、有形無形のストレスが溜まるのは否定できなかった。
相手は無邪気だが、その分、容赦の欠片も無い子供達。
いつしか神父は、ドでかい悩みを一つ抱えていたのである。















「は・・・・・・・・・・」



ギッ、と声の聞こえた方を睨みつける神父。
其処には口を半開きにしたままの鬼道が、片手を挙げたまま硬直していた。
場所は学内の廊下、生徒達は心持ち目を伏せ気味にして歩き去っていく。



「・・・・・・るめいてきましたなぁ」

「・・・・・・・・・・・・そうだね」



うん、季節の挨拶は大切なものだ。
雅な心を大事にと思いながら、二人は窓から外を眺めやる。
何故だか、鬼道の後頭部にはでけぇ汗が、神父のこめかみには怒りの四つ角が浮いていたけれども。




「あ、は・・・・・・・・・」



ピキィン、と周囲にオーラを放つ神父。
教室から出た辺りに、神父へと目を向けたままの弓が立ち尽くしていた。
顔を引き攣らせたおキヌや魔理の姿もある。その三人の表情は似通っていた。



「・・・・・・なも咲く季節ですわねぇ」



春だからね。
そうですねー、そうだなー、と返すのは彼女のフレンズ。
三人とも、どうしてか神父の後姿は視界に入れないようにしている。
しばしの間、立ち止まっていた神父だったが
鬼道が再起動しようとしないので、溜息をついて歩き出そうとした。

だがしかし





「あっ!!!!!」



ビシッ、と凍り付く神父。
彫像と化した彼の元に走ってくるのは三人の生徒。
活発そうな赤毛ショート、眼鏡に黒髪関西弁、垂れ目な彼女はおとなしめ。
美少女と呼んで差し支えない彼女等を見据えながら
蝦蟇の如くに脂汗を流しつつも、神父は逃げる事も抗う事も出来ず
そして、その生徒達は致死率百パーセントのザラキを唱えた。










「「「は~~~げ~~~~~!!!!」」」










ぴぴぴぴぴぴきぃっ

確かに居合わせた人たちは見た。罅割れてゆく神父の姿を。
それと同時に、腹抱えて笑うのを必至に堪えていたが。
話し掛けてくる少女たちに、微笑みながら対応する神父。でも目に涙。

・・・・・・・・・彼の名誉のために付け加えておこう。
『はげ』ではなく、『は~げ~』である。
代わらないように見えて、さにあらず。
この名は某霊能先生を模して付けられたものだ。
神父の本名は唐巣和宏。これは何処を取っても語呂が悪い。
従って、子供たちは頭を捻って考えた。
何かいいポイントは無いものか。
そして、天啓が閃いたのだ。主に神父の頭とかで。
ああ、なんと子供らしい可愛いあだ名のつけ方ではあろうか。
神父は日々、目の前のなめたクソガキお転婆なお子様に殺意を募らせていたが。





『神父先生は~げ~』




将来において、六道女学院の名物教師と呼ばれる彼の伝説はここから始まった。
泣きながら理事長に土下座かまして、宣伝だけは取りやめてもらったのは救いなのだろう。たぶん。きっと。